フランスの小説家ジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」は、子どもの頃に読んだ本の中でも印象的な一冊だった。冒険の連続にすっかりとりことなった▼代表作の一つに「八十日間世界一周」がある。英国の資産家が世界を一周しようと試みる波瀾(はらん)万丈の物語だ。発行されたのは1872年。飛行機のない時代に80日間というのは無謀に近かった▼この小説に着想を得たユニークな展覧会が宇都宮市の県立美術館で9月22日まで開かれている。題して「45分で栃木一周」。本県の風景などを描いた収蔵品120点を展示し、作品を鑑賞することで県内各地を巡る気分に浸ってもらう▼主任研究員の杉村浩哉(すぎむらひろや)さんが昨年夏、企画案作成に着手した。当初は東京五輪に合わせ来県する外国人観光客にターゲットを絞った企画展にしようとの意図だった。「結果的に近場を見直すマイクロツーリズムを促す趣旨になりました」と杉村さんは言う▼栃木市出身の洋画家清水登之(しみずとし)の「陶土の丘」はキュービズムの手法を生かし益子の土作りの様子を描いた。同郷の洋画家刑部人(おさかべじん)の「中禅寺湖秋色」はまるで印象派の作品のようだ。それぞれの画家の目を通した本県の姿が興味深い▼コロナ禍で世界一周は当分無理だが、栃木一周は美術館を訪れるだけで体験できる。暑さしのぎにもうってつけだ。