新型コロナウイルスに感染した体験を振り返る鬼怒川太朗さん=17日午後、日光市藤原

 感染した人が、逃げなくても済む社会になってほしい-。新型コロナウイルスに感染した栃木県日光市、演歌歌手鬼怒川太朗(きぬがわたろう)さん(73)が下野新聞社の取材に応じ、感染者に向けられる差別的な言動や偏見への懸念を明かした。身近な人に感染を広めた申し訳なさ、地域に迷惑を掛けたという後ろめたさ、感染を知って態度が変わった人、励ましてくれる人…。複雑な思いが交錯する。県内で初めて感染者が確認されてから22日で半年を迎える中、「コロナ感染者が受ける社会的風評の厳しさを分かってほしい」と訴えた。

 鬼怒川さんは、7月にクラスター(感染者集団)となった日光市鬼怒川温泉大原の「ラーメン居酒屋 八海山」の責任者。「コロナに対して気を緩め、よそ事だと思って甘く見ていた」と非を認める。

 仕事柄、人付き合いは欠かせなかった。7月中旬、東京都や埼玉、茨城県からきた知り合いと店で懇親した後、近くのスナックに行った。マスクを外し、「三密」状態で過ごしてしまった。

 7月下旬の検査で陽性と判明し、県西の病院に入院した。自覚症状はほとんどなかったが、従業員やその家族らから次々と感染が確認された。「子どもまで感染してしまった。それが本当に辛く、申し訳ない」と悔いる。

 県の調査で店名を公表することに同意した。「鬼怒川温泉全体が疑問を持たれ、不安が広がるのを避けたかった。その思いだけは分かってほしい」。SNSなどでは「よく店の名前を出した」「頑張れ」と、好意的な反応が多かったことが救いだった。

 検査で「陰性」と確認され、8月上旬に退院。その後、おわびと近況報告の通知を100通以上送り、関係者方へ足を運んで頭を下げて回った。「大変だったね」「警鐘になった」という同情的な反応の一方、「何てことをしてくれたんだ」と厳しい言葉を投げ掛けられた。

 「知っている人に会うと、今は(相手が)一歩引くような態度が必ずある。退院を分かっていても、みんな怖いんだよ」。人々が抱く不安を肌で感じる。店は休業中。自宅で自粛生活を送る。

 うわさも広まった。「自分も知人も死んだことになった」。地域で名前が知られている分、批判や風評、中傷されることも覚悟をしている。ただし、従業員が生活しにくくなるのではないかとの心配が拭えない。「一般市民の感染者で、苦しんでいる人はたくさんいるはず」と察する。

 一人一人が高い意識を持って感染対策する大切さを身をもって痛感した。「だれでも感染する可能性がある。コロナに対する謙虚さ、感染者への温かさがあってほしい」と願っている。