文豪・夏目漱石(なつめそうせき)は1912(大正元)年8月17日、上野から青森行きの急行に乗り西那須野駅で下車。塩原軌道で関谷まで行き、そこから人力車を雇って塩原温泉郷に向かった▼ロンドン留学中の旅先の情景と、塩原の渓谷の景観を重ねたのだろう。途中の塩原バレーラインについて「いい路なり。蘇格土蘭土(スコットランド)を思い出す。松、山、谷、清藍の水」と、漱石日記「塩原行」の中でつづっている▼塩原には避暑で訪れ6泊した。温泉街の中心にある「塩原もの語り館」のミニ展示コーナーで、ちょうど漱石が特集されている。日記の抜粋のほか友人や弟子たちに送ったはがき、滞在中の足取りを手描きのイラストで表現したパネルなどが面白い▼日記によると、塩の湯など各所の温泉につかり、逆杉(さかさすぎ)や源三窟(げんざんくつ)など名所旧跡を見て回った。塩原随一とされる竜化の滝を訪れ、妙雲寺境内の常楽の滝では漢詩を残した▼日本列島が酷暑にあえいでいる。佐野では先日、県内観測史上最高となる39.8度を記録した。漱石に倣って、せめて滝巡りでひとときの涼感を得るのもいいだろう▼塩原温泉郷には70を超す滝が存在する。バレーライン沿いにはいわゆる3大名瀑があり、遊歩道が整備されているので車で気軽に立ち寄れる。行程にあるつり橋や渓谷美を存分に楽しみたい。