村上春樹(むらかみはるき)さんの長編小説「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」にキーワードの一つとして「獣の骨」が登場する。哺乳動物の頭蓋骨を収集する博士のせりふの一節にこうある。「文字通りの意味で骨は語るのです」▼この作品の世界観を地で行くような展示会が、ほぼ1カ月ぶりに再開した県立博物館で開かれている。テーマ展「骨が語る動物の秘密」は、同館収蔵の動物の骨格標本約30点に焦点を当て、さまざまな見地から謎を探る▼例えば同じ哺乳類でもコウモリとアザラシ、そしてヒトとでは見かけは全く異なるが、骨の構成はみんな一緒だという。肩甲骨も上腕骨も全てに備わっているが、空を飛んだり海を泳いだりするのに適した機能に合わせ既にある骨が変形する▼歯やあごの形を比較する視点も興味深い。とりわけ奥歯は食べ物と関係が深く、雑食のイノシシとヒトの表面はかみつぶすのに都合がいいように平べったいが、草食のカモシカはおろし金のようにギザギザしている▼学芸員の林光武(はやしてるたけ)さんは「死をイメージし不気味と思われる骨だが、実は機能美にあふれている」とその魅力を語る▼まさに骨のある知識が骨の髄までしみわたる内容の展示会だ。コロナ禍で運動不足の危険性が指摘されるが、知的な栄養の吸収も忘れてはならない。出掛けてみては。