田植えができない田んぼを見つめる塩野目さん(左)と大輪さん。「仕方ないね」と肩を落とす=9日午後、那須烏山市下境

 田植えシーズンを控え、昨秋の台風19号により広範囲で田んぼが浸水した県内の一部地域では、今季の田植えを断念する農家が少なくない。土砂が流入したまま手つかずの農地もあり、農家からは「仕方ない」と諦めの声が漏れる。台風被害から半年がたっても、農地の復旧は道半ばだ。

 広範囲で住宅や農地が浸水した那須烏山市下境地区では、今でもひび割れた土に覆われた田んぼが目立つ。「台風の直後からほとんど変わっていない」。農業、塩野目富夫(しおのめとみお)さん(71)は肩を落とす。

 近くを流れる那珂川が氾濫した影響で、約65アールの田んぼの半分ほどが現在も作付け不能となっている。堆積した泥の撤去や、水をくみ上げる揚水設備の復旧など課題は山積み。田植えを予定する残りの場所も、断絶した用水路の復旧を待たなければならない。「不安もあるが、できると信じて準備するしかない」

 近くに住む農業小森重雄(こもりしげお)さん(75)、房子(ふさこ)さん(69)夫妻は「農機具がだめになったので買い替えた。来年はまた米を作りたい」と前を向く。

 那須烏山市内には下境地区以外にも、作付け不能の農地が複数ある。工事の主体となる市は被災後、被害状況の確認や事務手続きなどに追われてきた。「水が届けば作付けできる場所もある」(市の担当者)と、揚水ポンプなど水利施設の復旧を急ぐ。ただ、農地や用水路の工事が本格的に始まるのはこれから。完了は秋ごろになる見込みだ。

 同市下境、農業大輪昭一(おおわしょういち)さん(80)は「来年はまた米を作りたいが、それまで体力があるかどうか」と不安を口にする。

 被害が目立った県南地域でも苦境は続く。佐野市柿平町、農業田名網收(たなあみおさむ)さん(79)は、自身の田んぼと高齢の農家から引き受けた借地を合わせて約230アールに作付けしていたが、今年は約90アールで作付けできない。収穫量は例年に比べ4割ほど減ってしまう見込みだ。

 秋山川に隣接する一部の田んぼは流入した土砂や流木が今も散乱している。「毎年楽しみにしている人たちにお米を届けられなくなってしまうかもしれない」と頭を悩ませる。