長年の謡曲愛好者で観世流名誉師範だった渡辺文雄(わたなべふみお)元知事は、最晩年まで本県の謡曲振興に尽力した。先月、91歳の天寿を全うした。県謡曲界にとって、かけがえのない人が逝った。

 「能を見、謡うことで、多忙な公務の中でも、心の豊かさを自分なりに持ち続けられるようになった」。知事時代、そう語っていた渡辺氏。退任後は、門下生を率いて県芸術祭などの舞台を踏んだ。ワークショップや講演など普及啓発活動の先頭にも立った。

 日光田母沢御用邸記念公園研修ホールが仮設の能舞台を完備するのも、渡辺氏の力だ。県謡曲連盟は毎年4月、春の日光謡曲大会を同所で開いている。亡くなるまで同連盟顧問を務めた渡辺氏は、2004年の初回から出演し、16年までプログラムに名を連ねた。

 今年の大会は渡辺氏の追悼として、8日に開くはずだった。新型コロナウイルス感染拡大で延期を余儀なくされ、残念でならない。一日も早くコロナが終息し、大会が開催できることを願いながら、改めて渡辺氏の功績を偲び、冥福を祈る。