焼きたてのパンを並べ、笑顔で接客する順子さん

再開した小梅堂

焼きたてのパンを並べ、笑顔で接客する順子さん 再開した小梅堂

 林と水田に囲まれた栃木県市貝町市塙の里山の中に立つベーカリーカフェ「小梅堂」。愛された夫婦二人三脚の店が、夫の死後店を閉じて約2年。失意の底から立ち上がった妻が、新調した窯に再び火を入れ、パンを焼き始めた。

 小梅堂は、陶芸家だった伊藤寛司(いとうひろし)さん(享年65)と妻の順子(じゅんこ)さん(63)がセルフビルドで建てた愛らしい店。焼かれたのは天然酵母と国産小麦、水だけを使い、焼く前の日に仕込んで長時間発酵させる本格志向のパンだ。

 ジュエリーデザイナーだった順子さんが40代後半に体調を崩した時、好きだったパン作りにのめり込んだのがきっかけで、母屋の前に店を建て、開業したのは2008年1月。寛司さんも土を小麦粉に持ち替えてパン作りに精を出した。

 レシピ作りと経営は順子さん、パンを焼くのは寛司さん。「互いに補い合いながら」焼いたパンは、初め「固くて犬も食べない」とまで言われたが、宇都宮市内の直売所や道の駅に並べるようになってからは、菓子パンや総菜パンにない、小麦本来の風味を楽しみたい食事パン好きの心を捉え、遠来の客も増えた。

 しかし寛司さんにがんの転移が見つかってから、わずか1年半ほどで順子さんは1人になった。16年12月のことだ。

 「『帰ったらパンを作りたい』って」。すっかりパン職人の顔になった寛司さんから「店は続けてくれ」と言われた順子さんだったが、「生きているのが不思議」と思うほど落ち込み、18年2月以降、店にパンが並ぶことはなくなった。

 手放したパン窯。「たまに来るお客さんに『今はやっていない』と言うのがつらかった」という順子さんが、小ぶりの窯を新調したのは、パンを作っている時間は幸せだからでもある。昨年秋から週1日店を開け、またパンを焼き始めた。

 21日も開店後間もなく客が次々に入った。「宇都宮勤務時代には毎週来た」という東京都江東区北砂3丁目、会社員馬場義之(ばばよしゆき)さん(48)は「3年ぶり。再開してくれて本当に良かった」と、長女千咲(ちさき)さん(9)と喜んだ。

 順子さんは「こういうお客さんがいるので始められたの」とほほ笑んだ。

 第4土曜日を除く土曜日にベーカリーカフェ、木曜日にはパン教室、水曜日には麻糸作りの講座が開講する。新しい店の名前は「Wellside(井戸端)小梅堂」。(問)同店0285・68・3156。