旧喜連川町(現さくら市)。歴史好きでもない限り県外の人は「きれんがわ」と読みがちで、難解地名に当たるのではないか。市のホームページ(HP)には狐川(きつねがわ)が転じたとの説が載る▼この地を舞台にした小説の刊行が相次いでいる。石高5千の弱小藩にもかかわらず、足利氏の流れをくむ名門として10万石大名の扱いを受けた歴史が作家の興味を引くのだろう。稲葉稔(いなばみのる)さんの「喜連川の風」シリーズなどに続き、今度は神家正成(かみやまさなり)さんの新刊「さくらと扇」が出た▼出版までのいきさつがユニークだ。神家さんもメンバーで直木賞作家も名を連ねる歴史時代小説家の集団「操觚(そうこ)の会」と、さくら市のコラボ企画で誕生。2年前に市のHPで連載したものに大幅加筆した▼小説は足利(あしかが)氏の血を引く嶋子(しまこ)と古河公方の娘氏姫(うじひめ)の2人の姫が、豊臣秀吉(とよとみひでよし)、徳川家康(とくがわいえやす)という権力者から領国喜連川と古河の地を守るため奮闘した生涯が描かれる▼取材で何度も喜連川に足を運んだ神家さんはその魅力を「城下町の名残が感じられ、至る所に知られざる歴史が秘められている」と語る▼那須与一(なすのよいち)、宇都宮氏…。神家さんの目には本県は歴史時代小説のネタの宝庫と映る。自治体が作品を依頼するこの方法は、地域の魅力を発信するにはうってつけ。操觚の会も前向きという。他の市町も取り組んでみては。