昨年10月の台風19号で被害を受けた県南の観光施設が、新型コロナウイルスでも苦境に立たされている。外出自粛などの影響で、栃木市の巴波(うずま)川を下る遊覧船は被災後の再開から3カ月で営業休止に。立ち直り始めた足利市や佐野市の観光イチゴ園も客数が大きく減っている。台風19号が本県を直撃してから12日で5カ月。世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症を「パンデミック(世界的大流行)」とした。想定外の障壁が追い打ちを掛けている。
「『春に取り戻そう』とみんな前向きになっていた。こんなことになるとは夢にも思わなかった」
栃木市倭町のNPO法人「蔵の街遊覧船」の船頭マネージャー中村明雄(なかむらあきお)さん(62)は落胆を隠せない。台風19号では巴波川の氾濫で川に大量の土砂がたまるなどし、秋の行楽期だけで1万人の観光客を失った。
被災から約2カ月後の昨年12月、営業の再開にこぎ着けたが、今度は新型コロナの影響で今年2月から予約が30件以上、立て続けにキャンセルとなった。
「川もきれいになって、今年はサクラの開花も早いし、聖火ランナーも遊覧船に乗る。まさにこれからなのに…」。事態の収束は見えず、今月1日から再び営業休止に。当初は14日までの予定だったが、11日に今月末までの延長を決めた。
WHOは新型コロナウイルス感染症をパンデミックと表現。中村さんは「あらためて大変なことになったと感じる。ただ中国では流行のピークを過ぎたとの話もあるので、日本でもそうなってほしい」と話した。
足利市大久保町にあるJA足利アグリランドいちご農園では、客数が例年の4分の1に落ち込んでいる。
「泣き面に蜂です」。秋草照男(あきくさてるお)常務は、真っ赤に熟したスカイベリーを手に嘆く。台風19号では19棟のビニールハウスが2メートル以上浸水。苗が泥をかぶり、半数を植え直した。
例年より約2カ月遅い2月10日に客を迎えられるまで復旧したばかりだが、新型コロナの影響で、中国からの観光客が激減した。バスツアーもほぼない。「ハウスを開けて換気もし、人の密集もなくしている」が、客足に好転の兆しは見えず不安に襲われる。
1シーズン6万人以上が訪れる佐野市植下町の佐野観光農園アグリタウンも台風19号で苗が水に漬かるなどした。イチゴの状態は回復し、消毒や手袋などの新型コロナ対策をしたが、土日の客数は例年の6割。バスツアーは9割以上なくなった。「イチゴが余っても直売などのイベントもできない」と岡部孝幸(おかべたかゆき)社長は頭を痛めている。