日経平均株価が初めて1万円の大台に乗ったのが1984年だった。この年には長く続いた聖徳太子(しょうとくたいし)に代わり、福沢諭吉(ふくざわゆきち)が1万円札の主役に躍り出て好景気を演出もした▼躍動する時代に初当選を飾ったのが渡辺文雄(わたなべふみお)元知事である。本県の県民所得は2016年度に過去最高の全国3位に輝いた。工業と農業を中心にバランス良く発展させる礎を築いたのが、渡辺氏だったことは多くの人が認めている▼7日夜に91歳の天寿を全うした。県職員OBはキャッチフレーズを多用する知事だったと思い出を振り返る。例えば「イエス・バット」がある▼公務員の習い性とも言える、できない言い訳である「ノー・ビコーズ」でなく「はい、やります。でも課題はこうです」と何事も前向きの心構えが大切と説いた▼東京陸軍幼年学校卒という経歴も影響しているのであろう。「命を受けて欣然(きんぜん)。敵を見て勇躍」の言葉も印象に残るという。人事や難しい仕事を命ぜられたときには喜んで受け、課題があったときこそ躍動せよ、との意である。謹厳実直を地でいった人だった▼中国などの故事にならい、人の死後に尊敬して付ける称号の諱(いみな)を贈るとしたら何がふさわしいか。文官トップを極めた功績と、その名前から「文」。あるいは郷土をこよなく愛したことにちなみ「栃」か。安らかな眠りを。