「プチ農業体験はたった1年で終わったが、今でも(中略)思い出すたび心に涼やかな風が吹く」。「貸し畑で土いじり」と題した作家の森絵都(もりえと)さんのエッセーの一節である▼筆者の周囲でも趣味で野菜作りを始める人が増えている。心地よい汗を流せて収穫した喜びも味わえると口をそろえる▼農の持つ多様なメリットを生かし、誰もが笑顔になる取り組みを「ユニバーサル農業」と呼ぶ。障害者の就労を促進する「農福連携」の分野でも笑顔が広がっている▼大田原市の建設会社社長星豪紀(ほしひでとし)さん(48)は、農福連携で地域おこしをしたいと3年前に就労継続支援施設「ポラリス」を立ち上げた。12人の障害者が近くの農家に出掛け、アスパラガスの脇芽を摘んだり、ネギを選別したりする日々を送っている▼「農業は自分の働いた成果が見えやすい。社会参画しているんだという気持ちが障害者に強まっています」と、星さんは効用を説く。悪天候で畑に出られないとストレスがたまるほどだという。将来は障害者が自身の手で起農できればと夢を描く▼県は人手不足に悩む現場と働く場が限られる障害者双方をつなぐ農福連携マッチングに力を入れる。2019年度の実績は1月末で28件と前年度を4件上回った。より多くの人に涼やかな風が吹き寄せるよう一層の努力を望みたい。