古来、日本酒は地元の米と水で造られ、その土地ならではの味を醸してきた。だからこそ、こうしてできた地酒は郷土料理とこの上なく合う。和食が多く登場する正月は、酒に接する機会も増える▼味の決め手となる気候風土を、ワインでは「テロワール」と呼ぶ。これにこだわるのが「仙禽(せんきん)」で知られる蔵元のせんきん(さくら市)。ただ日本酒はワインと違い、どんな器で飲めばさらに引き立つのかを考えることはそうない▼酒造りと同様に地元の土で作れば、より豊かな味わいになるのではないか。やはりテロワールを重視した陶芸を行う東京芸術大の三上亮(みかみりょう)准教授(60)が、同社と協力して酒器を作り上げた▼着想は面白いが、さくら市の土は陶芸向きではない。3年前に始まった作業は、土探しから困難を極めた。ろくろを回しても形にならない。焼いても割れる、漏れる。救ったのは、酒蔵に使われた大谷石を砕いた粉だった▼水に溶け、接着剤の役目を果たした。完全に地元の物だけで作った器で飲んだ仙禽は、その特長が花開いた「感無量のうまさ」だったという▼製品になったのはわずか50個。ほぼ完売し、再度作る予定がないのは残念だが、日本酒の新たな楽しみ方が提案されたのは間違いない。地元の風土を感じる器で酒を堪能できる取り組みがもっと広がるといい。