文化不毛の地と呼ばれた宇都宮で、汚名を払拭(ふっしょく)しようと、文化・芸能の発信に取り組んできたのが歌舞伎・落語研究家の清水一朗(しみずいちろう)さん(85)=宇都宮市=だ。地元にゆかりのある作品を発掘したり、創作したりしてきた▼見つけた一つが落語「怪談牡丹燈籠(ぼたんどうろう)」。幕末から明治にかけて活躍した名人三遊亭円朝(さんゆうていえんちょう)による、三大怪談の一つである。愛しい男の元へ夜な夜な通う女は実は幽霊だったというあらすじは広く知られている▼ただこれは、一晩では演じきれないほど長い全編のほんの一部。複数の話が絡み合い、最後のあだ討ちの舞台として宇都宮が登場する。上演される機会はめったになく、清水さんさえ長らく知らなかったという▼先日、清水さんらが主宰する「二荒山寄席」で、大団円「十郎ケ峰の仇討(あだうち)」が披露された。円朝の流れをくむ真打ちの林家正雀(はやしやしょうじゃく)さんが高座に上がった▼敵を追う道すがら、二荒山神社のほか、池上町、八幡山などなじみのある地名や、神社の西側で今はなき杉原町も出てくる。笑いを誘う場面はないものの、巧みな話芸や展開の面白さも相まって引き込まれた▼次回2月の寄席は講談「宇都宮釣天井(つりてんじょう)」。その先は宇都宮に関わりがある落語家を招いた寄席も予定する。地元で落語を気軽に楽しむ裾野が広がれば、清水さんの半世紀に及ぶ労苦も報われる。