小さなガラス容器に封入された黄色い液体。「碧素(へきそ)」のラベルが貼られている。太平洋戦争末期、日本で作られたペニシリンだ。岐阜県の内藤記念くすり博物館に現存する最後のアンプルが、本年度の「未来技術遺産」に認定された▼ペニシリンは1928年、英国のフレミングが青カビから発見した世界初の抗生物質。その後、英オックスフォード大のフローリーらが精製に成功、米国で大量生産され、多くの傷病兵の命を救った▼米英と敵対する日本は、この「奇跡の薬」を入手できなかった。陸軍軍医学校が44年2月、独自開発に着手した。学問的情熱と命を救いたい使命感を支えに、1年も経ずに実用化にこぎ着けた底力には驚かされる▼現在、製薬企業の多くが抗菌薬の生産拠点をコストの安い中国などに移している。背景には、採算割れを起こしかねない低い薬価がある。ペニシリンも例外ではない▼国内唯一のメーカーは、原薬を中国などで調達し、インドネシアの子会社で製剤化している。日本での工程は全く無い。重要な薬の製造が海外に依存しすぎるのは国の安全保障上問題がある▼未来技術遺産は、科学技術を支えた先人の経験を次世代に継承することが目的。小さなアンプルには熱い思いが詰まっている。しっかり引き継ぎ国内生産再構築への道を探る必要がある。