台風19号の本県直撃から間もなく3週間。甚大な被害を受けた栃木市と佐野市では、1日も復旧作業が続いた。家屋や生活必需品だけでなく、思い出の品物も泥をかぶった。人々は悲しみに耐えながら、前へ進もうとしていた。
■栃木市
庭に乾いた泥がうっすらと残る、祝町の民家。渡辺啓次(わたなべけいじ)さん(80)と妻のトク子(こ)さん(77)は、ぬれた手紙や写真を一枚一枚丁寧に部屋の日の当たる場所に置き、乾かしていた。
永野川が決壊し、床上1メートルほどが浸水。タンスなどの中身が全部汚れた。引っ越し先のアパートに全部は持って行けない。「みんな思いが詰まっている。捨てたくない」。2人の目から大粒の涙がこぼれる。
ただ、絶対に捨てられない物がある。
お祝いごとのたびに2人の子どもから贈られた手紙、子どもが初任給でくれたお小遣いが入っていたポチ袋、みんなが笑顔で写った七五三や結婚式の家族写真…。
文字がにじみ、読みにくくなった手紙もあるが、トク子さんは「心のこもったプレゼントだからね」と声を絞り出す。
築45年。思い出が詰まった家。取り壊しも検討している。「つらいけど頑張るしかない」。2人は涙をぬぐった。
■佐野市
決壊した秋山川近くの歩道を、マスク姿の小学生が一列に歩く。付近には土や土のうが積まれたままだ。
秋山川から約300メートルの佐野ラーメン店「山銀」。砂のかぶった駐車場には、休みを知らせる看板がぽつりと立つ。代表の木塚儀隆(きづかよしたか)さん(47)は長引く休業に「お客さんが戻ってくる保証はない」と表情を曇らせる。
それでも「手伝いに県外から駆け付けてくれたお客さんもいた。ファンの思いに早く応えたい」。8日ごろの再開が目標だ。
自宅で片付けをしていた同市内の男性(73)は「自宅での年越しはできないかもしれない」と覚悟している。
妻と2人で市内の避難所から自宅に通う毎日。修繕の費用や期間も見通せない。だが、一つ決めていることがある。「30年以上住んだ家。ここに住み続ける」
市民生活を一変させた秋山川。この日は澄んだ水が穏やかに流れていた。