濁流の中から生還し、元気に餌を食べる肉牛を、保護に協力したJA職員と見守る瀬尾さん(手前)=25日午後、茂木町小井戸

 台風19号が本県を直撃して26日で2週間。未曽有の増水で甚大な被害を受けた茂木町の那珂川沿いでは、最大約30キロも下流に流された肉牛が保護されるなど朗報が届く一方、廃業を覚悟した酪農家もある。流れた牛の一部を取り戻した畜産業の男性は「備えが甘かった」と悔やみ、喜ぶ間もなく不明の牛探しを続ける。被災者は傷つきながらも生活再建に向け踏み出そうとしている。

 「もう駄目だ。かわいそうなことをした」。茂木町小井戸、畜産業瀬尾亮(せおまこと)さん(65)は13日午前5時半ごろ、肉牛23頭を放していた茂木町河井の約5ヘクタールの放牧場が濁流に沈むのを見て立ち尽くした。牛の姿はどこにもない。しかし午前9時ごろから、落胆した瀬尾さんの元に「牛が流れ着いた」「鳴き声がする」などという情報が次々に入った。

 JAはが野の職員や畜産仲間ら6人で探し、隣町の茨城県常陸大宮市でまず生後4カ月の子牛を保護。この日6頭、翌14日に5頭と、17日までに17頭保護した。奇跡的に皆元気だった。

 牛は耳に付ける「耳票番号」で飼い主が分かる。中には水戸市の水戸北インター付近まで約30キロも流され茨城県の施設に保護された牛もいた。「よくぞ生きていてくれた。皆さんの協力のおかげ」と感謝する瀬尾さん。「放牧場の牛を避難できる数に減らしておけばよかった」と悔やんだ。

 同町小深(おぶか)、酪農業町井覚(まちいさとる)さん(56)の牛舎3棟は2~3メートル浸水し、3頭が流された。乳牛を探すうち、瀬尾さんの肉牛4頭を保護、引き渡した。

 しかし町井さんの牛舎にいた43頭のうち、11頭が死んだり行方不明になったりした。助かったが長時間水に漬かって体調を崩し飼養を諦めた牛もいる。機材も車も飼料も浸水、町井さんは「廃業して勤めに出るしかないだろう」と話した。

 瀬尾さんは牛の捜索中に転び胸をけがしたが、痛みをおして22、23の2日間、泥まみれの県境一帯で朝から晩まで不明の牛をバイクで探し回った。「2週間はえらく早かった。牛探しは諦めない。協力してくれた人の恩に報いないといけない」と、経営再建へ自らを奮い立たせている。