佐野市の葛生伝承館で白い外壁を巨大なキャンバスに見立て、無心に筆を走らせる青年2人と初めて会ったのは2009年。完成に10年かかると言われ、気が遠くなったことを覚えている。佳境に入ったと聞き、久々に訪ねた▼日本画家の福島恒久(ふくしまつねひさ)さん(41)と戸倉英雄(とくらひでお)さん(42)。画家として風格が増した2人が描いているのはフレスコ画だ。しっくいを塗り、乾ききる前に絵を描くと、柔らかな美しい色が半永久的に残る▼バチカンの「最後の審判」で知られる。葛生は原材料の石灰の産地で、県組合が依頼。「過程を通じてわれわれの成長も見てほしい」と作業を公開してきた。試行錯誤の日々を経て、今は筆に迷いがなくなったという▼途上だが、絵は自由に見ることができる。オリエンタルな雰囲気の花や動物が壁いっぱいに描かれ、幻想的な空間が広がる。目を懲らすと、いもフライや佐野らーめんなど地元の象徴も盛り込まれている▼福島さんは制作を機に佐野市に移り住み、すっかり土地の人間になった。京都在住の戸倉さんは伝承館に勤めていた女性と結婚し、子どもも生まれた。そんな歩みも描き込まれ、見入ってしまう▼多様な用途がある石灰は、台風19号で浸水した家屋の消毒に活用されている。石灰から生まれたフレスコ画は、被災して疲れた心の癒やしにもなる。