足利市が毛野公民館に開設した避難所。同市では最大で市民約1800人が避難所に身を寄せた=16日午後、足利市八椚町

 「避難所の富田小、富田中はまだ開けられない」

 12日午後8時ごろ、足利市寺岡町の山本祥嗣(やまもとしょうじ)自治会長(69)の自宅に市職員から電話が入った。避難所を開設する市職員が、両校に到着していなかった。

 日中からの雨は弱まる気配がない。道は一部で冠水が始まっていた。山本会長は、寺岡町自治会館を急きょ避難所にすると決めた。自治会の仲間と電話や訪問で隣近所に知らせて回り、同9時ごろに開設すると、約20人が身を寄せた。

 この間の同8時45分、同市は市内全域に避難勧告を発令。富田小、中両校を避難所として開設した。

 だが、山本会長は記憶をたどって明かす。

 「(市全域の避難勧告は)知らなかった」

 同じ頃、自治会館から1キロ足らずの田園地帯の農道。別の避難所へ向かっていた乗用車が水没し、同乗していた近所の女性(85)が命を落とした。

 同じ農道で同じく避難中に、軽乗用車が水没した別の女性(56)は振り返る。

 「まるで大河のようだった」

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 台風19号で、同市では12日午後10時現在、避難所21カ所に1806人が身を寄せた。県の13日正午現在のまとめによると12日深夜~13日未明、県内は22市町の避難所369カ所に1万9822人が避難した。

 同市は今回、避難などの情報伝達で、自治会長を通じたマンパワーを柱にした。ホームページ(HP)などのインターネットは利用しない市民もおり、広報車のスピーカーでは雨音にかき消されてしまうからだ。HPなどでは避難所だけでなく、自宅の2階など「より安全な場所」への避難も促した。

 だが情報は、全ての市民には届かなかった。一部はリアルタイムで避難勧告が伝わらず、避難所を目指す途中で車が次々と水没した。

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 栃木市では13日未明、徒歩で避難所へ向かっていた同市泉川町、女性(60)が同市薗部町3丁目の用水路で見つかり、死亡が確認された。付近は当時、停電していたとみられる。

 近くの会社員長正彦(ちょうまさひこ)さん(52)は12日午後10時すぎ、自家用車で近くの高台へ逃げた。「早めに避難して良かった」。既に永野川の支流の水があふれだしていた。

 複数の住民によると、一帯は12日深夜~13日未明、川のようになっていたという。亡くなった女性が暮らした集合住宅の高層階に住む畜産業倉持憲二(くらもちけんじ)さん(67)は自宅にとどまった。早朝、水が引くのを見届け安堵(あんど)した。「管理組合や管理人がいるわけでもない。自己判断だった」

 いつ避難すべきか、どこに逃げるべきか-。広域に被害をもたらした台風19号は、自らの判断が自分や家族の安全を左右する事実を突き付けた。