水没した車。母は乗用車(左)から救助されたが、病院で死亡が確認された=13日午前、足利市寺岡町

 「自宅の高い所に避難していれば良かったのか…」。12日夜、家族の乗用車で近くの公民館に避難しようとしていた栃木県足利市、女性(85)は路上にあふれた濁流に車ごと流され、救助を待つ中で命を落とした。自宅からわずか数百メートル。運転していて一緒に救助を待った長女(54)は「特に高齢者などがいる場合、早い段階で避難すべきだった」と悔やんだ。

 同日午後8時ごろ、RVで近所の様子を見てきた長女の夫が言った。「旗川があふれている」。雨はやむ気配がない。消防団の車は放送で避難を呼び掛けていた。「避難した方がいい」。富田公民館を目指し同8時半ごろ、夫はRVで、長女は乗用車に母と父(82)を乗せて家を出た。

 水田の中の農道を走っている途中、ハンドルが効かなくなるのが分かった。夫が話した旗川の方から、農道を横切る流れができていた。見る見る車内が浸水する。動かなくなる前に急いで窓を開けたが、水深はフロントガラスの上の方まで達した。「呼吸できるよう顔の部分だけは確保した」。長女が母を抱きかかえ、窓から母の身を乗り出すようにして耐えた。

 携帯電話で救助を求めたが、消防車も立ち往生して近付けない。ようやくボートで救出されたのは、13日午前3時すぎだった。

 母は心臓が弱かったという。「徐々に苦しそうにするようになって…」。死因は低体温症による急性心不全だった。

 「田んぼ1枚分も流されていた」。水が引いた後で現場を見て驚いた。付近は他にも2台が水田に押し流されていた。普段はのどかな田園地帯。長女は「日頃からの災害対策というのは、人ごとではないと思う」と唇をかんだ。