2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の主人公に決まり、24年度からは新1万円札の「顔」として登場する。そう遠くない時期に、渋沢栄一ブームが到来するだろう▼埼玉県深谷市の農家に生まれ、生涯を通じて約500社にかかわった、「日本資本主義の父」と呼ばれる実業家。企業の目的が利潤の追求であっても、その根底には道徳が欠かせないという「道徳経済合一説」を説いたことで知られる▼渋沢翁が道徳のよりどころとして、持ち込んだのは「論語」だった。彼の講演をまとめた「論語と算盤(そろばん)」(1916年刊)は、1世紀を経ても、教えが色あせず、説得力を持ち、価値が輝く“名著”だ▼日本郵政グループでは、ノルマ至上主義から、高齢者への保険の不正販売や、投資信託販売の不適切な契約などが発覚する。日本の誇りであったはずのものづくりの現場でも、ここ数年、名だたる企業の不正が相次ぐ▼こうした不祥事が続出する背景には、「今だけ、金だけ、自分だけ」という風潮が社会にはびこっているのではないか。「論語と算盤」には、こんな一節がある。「本当の経済活動は、社会のためになる道徳に基づかないと、長く続くものではない」▼グローバル化が一気に進み、企業が激しい競争にさらされる現代だからこそ、渋沢イズムをかみしめたい。