鹿沼市で2011年4月、登校中の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故で、長男大芽(たいが)君=当時(9)=を亡くした父伊原高弘(いはらたかひろ)さん(47)が7日、日光市今市文化会館のステージに立ち、ギターの弾き語りで自作曲を歌った。ギターを始めて約1年半。悲しみと苦しみの中で前を向こうとするきっかけをくれた音楽を、今度は伊原さんが奏でた。「いつか笑おう」。自分の歌が誰かに届き、救いになればと願う。
ステージの中央で伊原さんがアコースティックギターを鳴らす。ジーンズのベルトに、大芽君がサッカーで使っていた赤い練習着を引っ掛けて臨んだ。
7日の「第19回日光ボランティア・市民活動フェスタ」。伊原さんは週に1度通うギタースタジオの一員として出演した。
「人は誰しも大なり小なり悲しみや苦しみを抱えている」。1曲目の紹介では自身の身の上と思いを口にした。「いつか笑える日が来てほしい。そんな思いで書きました」。
〽泣いてへこんで悩んで悔やんで 走って転んでもいつか笑おう
軽快なリズムに、客席から手拍子が上がった。
音楽を始めたきっかけは、シンガー・ソングライターの半崎美子(はんざきよしこ)さんとの出会い。伊原さんと大芽君の母加奈子(かなこ)さん(48)の思いを受け、半崎さんは楽曲「明日へ向かう人」を作った。この曲を歌いたいと、伊原さんは18年2月にギターを買い、教室にも通い始めた。
今年1月、半崎さんの曲を弾いている時、「歌詞と曲があふれてきた」。息子を思い、涙が止まらない中、書き上げた。タイトルは「君に届けたい歌」。
〽僕は歌を歌うよ それしかできないから この想いを歌に託すよ 君に届けたいから
東日本大震災などで家族を亡くした人たちのことも思った。
6月に完成した『いつか笑おう』と、計2曲を歌い上げた伊原さん。演奏後、「心の底から笑うことはもうできないと思うけど、誰かの笑顔や幸せを願うことが、僕が生きるということ」と語った。ギターの腕を磨き、半崎さんと同じステージに立ちたいとの夢も描く。その「いつか」に向かい、ギターを奏でる。
2曲は伊原さんのブログで聴くことができる。