「英国でおいしい食事がしたければ1日に3回、朝食を取ればいい」と言ったのは小説家サマセット・モームである。ボリュームたっぷりで、卵料理やソーセージなどのほか焼いたトマトが添えられる▼現地でこのトマトを食べたことがあるが、あまりおいしいとは思えなかった。海外産は硬いので、生で食べるのを好む日本と違い煮たり焼いたりするのが基本。生産も味より量が重視される▼狭い面積で収益性が高い農業を実践する園芸大国オランダに学ぼうと、栃木市のトマト農家大山寛(おおやまゆたか)さん(68)は20年前にこの地を視察し、以来、先端技術を日本仕様に改良・開発して県内外に広めてきた「トマトの匠(たくみ)」だ▼「仲間が増えればハイレベルの切磋琢磨(せっさたくま)ができ、自分のレベルも上がる」。自らの経験やつくり上げた優れた技法を、教えを請う人に包み隠さず伝授してきた▼そのかいあって、本県はトマトの10アール当たりの収量で熊本県に次ぎ全国2位を誇る。一方、味の良さにもとことんこだわり続けてきた。種苗会社の調査で、日本人が最も好きな野菜のトップには常にトマトが君臨する▼今も真っ黒に日焼けしながら、若者が参入したいと思う経営方法の確立を目指し挑戦を続ける大山さん。年間を通しておいしいトマトが食べられるのは、こうした人たちの努力があってこそである。