「博(ひろ)く学ぶの道多けれど、書を読むほど益あるはなし」。江戸時代の儒学者貝原益軒(かいばらえきけん)の言葉である。書物の有用性を説く名言として今なお説得力を持つ▼出版不況の荒波にもまれ、全国で地方文化を支えてきた出版社が相次いで幕を閉じている。千葉県の草分け的存在で、1千冊の出版を重ねてきた流山市の崙(ろん)書房出版も先ごろ、半世紀の活動にピリオドを打った▼地方の文化を学ぶすべがその分だけ失われていくのは、極めて残念だ。本県に目を転じれば、厳しいながらも地道に地方文化を支えている出版社に宇都宮市の随想舎がある▼社長を務める卯木伸男(うきのぶお)さん(61)と会長だった小川修二(おがわしゅうじ)さんが34年前に「栃木に地方出版という新しい文化を根付かせたい」と設立にこぎ着けた。なけなしの15万円ずつを持ち寄り、ワープロを購入。家賃1万5千円で畳屋の倉庫の2階を借り創業した▼「栃木じゃ無理。持って1年」「随想舎が冥想(めいそう)者にならないよう」と知り合いにはあきられもしたが、今までに1千冊に上る刊行物を出すほどになった▼小川さんは先月、病で71年の生涯を閉じた。学生運動に身を投じ、宇都宮市の伝説のライブハウス「仮面館」の運営にも携わってきた。「好奇心の塊みたいな人」と卯木さんはしのぶ。小川さんの思いも背負い、随想舎の発展に誓いを新たにする。