「昭和の妖怪」と聞いて思い浮かぶのは岸信介(きしのぶすけ)元首相だ。安倍晋三(あべしんぞう)首相の祖父で、政界引退後も多大な影響を及ぼしたことからそう呼ばれた▼とはいえ、岸よりなじみがあるのは、水木(みずき)しげるの漫画に登場するキャラクターたちだろう。体に無数の目がある「百目(ひゃくめ)」は、女の妖怪「百目鬼(どうめき)」がモデルとされる。それとは趣が異なるが、本県にも伝説が残る▼100匹の鬼を率いて百目鬼と呼ばれた鬼が昔、宇都宮で藤原秀郷(ふじわらのひでさと)に討たれた。北部の「長岡百穴」で傷を癒やした400年後、寺で説教を聞くうちに改心し、人間に生まれ変わった▼確かに、多数の横穴石室からなる長岡百穴古墳はえたいの知れない何かがすんでいると思っても不思議はない。今も県庁のそばに百目鬼通りがあり、寺には鬼が残したという薄黒い爪がまつられている▼宇都宮市南図書館で「大人の探求心をくすぐる講座 栃木の妖怪」を聞いた。講演した県立博物館の宮田妙子(みやたたえこ)さんは「自然の中には私たちには分からない事象がいっぱいあり、それを理解する手段の一つが妖怪」と解説した▼那須の「九尾の狐(きつね)」を筆頭に、雷の多さを反映した雷獣や、かっぱの伝説が各地に残る。妖怪ブームの昨今だが、身近な所にも妖怪は潜んでいる。地元を調べて、気象や地形に対する先人の畏敬の念を感じるのも一興だろう。