「年寄りにはちょっと長く生きて来たぶん、経験の積み重ねがある。少しは気の利いたアドバイスができるかもしれない」。真保裕一(しんぽゆういち)さんの小説「繋(つな)がれた明日」に、保護司のせりふとして出てくる▼殺人を犯し少年刑務所から仮釈放された青年と、保護司の交流を軸に人間の在り方を問うた作品だ。物語に引き込まれながら、再犯防止を目指した更生保護制度の仕組みも自然と理解できる▼罪を犯した人たちの立ち直りを助けるため、見守りや指導、相談支援といった活動に携わる保護司は非常勤の国家公務員だが、給与は払われない民間ボランティアである。そのなり手が不足していると先日の小紙が伝えていた▼宇都宮保護観察所によると、定数に対する割合である充足率が9割を切ったという。定年があり76歳以上は再任されず、対象となる高齢の保護司が増えていることが背景にある▼宇都宮市に住む元高校校長の下妻久男(しもつまひさお)さん(72)は、先輩の勧誘で61歳で保護司を引き受けた。これまでに担当したのは少年4人を含む9人。自宅に呼んだり相手方を訪れたりしながら助言をする。「会う度に少年の心が成長していくのが分かる。何よりの喜びです」とやりがいを口にする▼人々の善意があって地域社会は成り立っている。下妻さんの行動はその重要性を改めて教えてくれる。