2人の子どもと1匹の犬。そこだけスポットライトが当たっているように明るい。背後には黒いシルエットの複数の人間がたたずむ。背を向ける人や視線を投げかける人がいる▼ハンセン病の国立療養所菊池恵楓園(熊本県)の病棟で過ごしている矢野悟(やのさとる)さんの絵画「きょうだい」である。子どもは矢野さんと姉。黒いシルエットは、差別と隔離の現実を端的に表しているようで胸に迫る▼矢野さんら入所者10人の作品を集めた絵画展が都内の国立ハンセン病資料館で開かれている。作品は菊池恵楓園の絵画クラブ「金陽会」が所蔵する850点の一部。会は1953年に発足した▼90歳の吉山安彦(よしやまやすひこ)さんの絵画「昼の月」は園の近くに実在する団地が舞台で、その前を歩くスーツ姿の男性は吉山さん自身。隔離されなければ、幸せな生活を営んでいたかもしれないという願いを投影した▼家族、古里、園内の風景をテーマにした作品が多い。絵に没頭する濃密な時間だけが、心のおりを洗い流したのかもしれない。ほとんどは専門的な美術教育を受けていない▼資料館の学芸員は「絵の手ほどきをした施設職員と仲間同士の切磋琢磨(せっさたくま)が創作活動の源泉になった」と居場所の大切さを強調する。絶望と孤独にさいなまれる中、寄り添う人の存在が心をいやす。それを金陽会の活動は示している。