郷土が生んだ作家と言ってまず思い浮かぶのが、文豪山本有三(やまもとゆうぞう)だろう。近年だと直木賞を受賞した門井慶喜(かどいよしのぶ)さんか。この2人を結び付ける意外なものがある。洋館である▼建築マニアを自認する門井さんが刊行した写真集「日本の夢の洋館」は、国内の代表的な洋館30件を取り上げ、独自の視点で解説する。そこに登場するのが、有三が暮らした「旧山本有三邸」だ▼現在は東京都三鷹市が所有し、記念館として公開している。写真集だけでは飽き足らずに先日、現地を訪れた。緑豊かな玉川上水沿いの閑静な住宅地にたたずむ洋館は、山荘風の魅力的な建物だった▼門井さんは「べつの人が建てたものをそっくり購入したんです。(中略)もしかしたら、入口のところに大谷石のオブジェの置いてあるのが気に入ったのかもしれません」と書いている▼有三は三鷹の邸宅に1936(昭和11)年から11年間を家族と共に住んだ。代表作「路傍の石」はこの家で執筆したという。吾一(ごいち)少年の困窮を極めた物語を瀟洒(しょうしゃ)な洋館でしたためていたことにいささかの違和感を覚えながらも、作家の想像力の巧みさに舌を巻く▼「来館者の大半が建物目的で、有三の業績はほとんど知らないようです」と、洋館のガイドを務めるボランティア女性はこぼす。今年で没後45年。顕彰が深まることを願う。