旧足尾町の北部にあった松木村は足尾銅山の煙害で山が荒れて住めなくなり、1902年に廃村となった。対照的に、住民が銅山側と忍耐強く交渉を続けて煙害を止めさせ、廃村の危機を免れた村が茨城県にある▼史実を基に映画化したのが「ある町の高い煙突」だ。6月下旬に全国で上映が始まり、小山市内で見た。原作は「八甲田山死の彷徨(ほうこう)」で知られる新田次郎(にったじろう)。舞台は日立市の日立鉱山と、同じ山にあった入四間(いりしけん)村▼日立鉱山の対策は失敗の連続だった。14年、原因となる亜硫酸ガスを含んだ煙を空高く放出して煙害を防ごうと、世界一高い156メートルの煙突を建設する。当時の常識ではあり得ない高さに挑んだ。被害は激減した▼足尾と同じ過ちを繰り返すまい-。一連の行動は、泥沼の闘いとなって終焉(しゅうえん)した足尾鉱毒事件が反面教師となっていたのは間違いない▼日立鉱山は煙害に強い樹木としてオオシマザクラに着目し、杉や松などの他に何百万本も山に植えた。春になれば山や市街を染めるこの桜は、煙害克服のシンボルである煙突と共に、市民の誇りだという▼煙突は26年前に倒壊し、高さが3分の1になったが、今も健在だ。企業が地域の痛みを無視すれば世間の信用を失い、存続できない。そんな精神が100年も前に生まれ、隣県で実を結んだことをまぶしく思う。