認知症はかつて痴呆(ちほう)と呼ばれていた。1980年代、改善するという触れ込みの「抗痴呆薬」が相次いで発売され、大ヒットした。ところが98年になって、薬の承認は一斉に取り消される。効かないことが分かったからだ▼なぜ承認されたのか。主な理由は、薬の効果を調べた臨床試験のずさんさだ。例えば効果を評価した「改善度」という尺度は、同じ対象なら誰が測っても同じ結果になるという「再現性」が確認されていなかった▼取り消しに当たって当時の厚生省は、薬理効果を否定するものではない、医療環境が改善され薬による症状の改善が見えにくくなったからだ、などと釈明した。ここでの「薬理効果」は全く意味不明で、効かなければ薬ではない▼認知症対策を巡る政府の対応に、そんなことを思い出した。予防法はないのに「70歳代での発症を10年間で1歳遅らせる」と妙な目標を掲げ、批判されると引っ込める。「予防の取り組みの結果として目指す」そうだが、既視感のある弁明だ▼老後に夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算した金融庁金融審議会の報告書を巡る言い訳も苦しい。政府のスタンスに反して報告書を作る審議会がどこにあるのか。担当相が報告書を受け取らないなど、茶番でしかない▼思い付きのような言葉に惑わされず、何が事実かを見極めたい。