温暖化を1・5度未満に抑えるためには、世界の二酸化炭素(CO2)の排出量を今世紀半ばに「正味ゼロ」(人間活動による排出と吸収の差し引きゼロ)にするというのが目安になる。IPCCの「1・5度特別報告書」が出る前、先進諸国は「50年に1990年比80%以上削減」などといった長期目標を掲げていた。

 しかし、特別報告書が出て、英仏などが50年に正味ゼロを目指そうと議論を始めた。「80%削減」でもぎりぎりだったはずなのに、どうすればそれが可能になるのだろうか。

 英語で「think(シンク) outside(アウトサイド) the(ザ) box(ボックス)」という言い方がある。箱の外を考えるという意味だが、「80%削減」を議論するとき、暗黙に置いている前提があったはずだ。

 でも「正味ゼロ」が必要だとの議論になると、おそらく暗黙の前提の方が変化する。常識が変わるということだ。いまの常識で考えると不可能に見えるが、常識が変われば可能かもしれない。世界では、そのように考える人がだんだんと増えている。

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 日本国内でも昨年の記録的な猛暑や西日本豪雨、非常に強い台風の上陸などで大きな被害が出た。

 ある気象災害が、その年に、その場所で起きたことは偶然と言えるが、気候変動が進めば、そうした災害が長期的に増えていくことは必然だ。

 実際に起きた大雨の例で見ると、もし温暖化していなければ大気中の水蒸気はもっと少ないので、そこまでの雨量にならなかったはずだ。その意味では、日本でも温暖化の影響の一部を私たちは見ていると考えてよいだろう。

 だが、昨年の報道などを見ていても、異常気象は非常に大きな話題にはなったが、「だから温暖化を止めましょう」という話はあまり盛り上がらなかったように思う。

 世界との危機感の差に関して、もし日本に特殊性があるとすれば、よく指摘されるのは「3・11」だ。東日本大震災があり、原発と放射能や、地震のリスクが日本人にとって非常に重く認識され、地球温暖化問題は後回しになってしまった面があるのかもしれない。

地球温暖化で氷が解けることが心配されているグリーンランド(ゲッティ=共同)

 ただ、気候変動に向き合う世界の潮流にぴんときていないと、ビジネス上の危機という問題も起きてくる。

 世界では気候変動対策を真剣にやらない産業には、投資が集まらないようになってきている。国際ルールや常識がどんどん変わっていく中で、ある時、世界の空気を読み、対策を取らざるを得なくなった時、これまで建ててしまった石炭火力発電所みたいな施設が、投資が回収できない「座礁資産」になるなどのリスクが出てきてしまう。

 現状は、無意識ではあっても変えたくない勢力と変えていきたい勢力がせめぎ合っている感じがする。

 脱炭素社会へ変えたいと考えている企業や自治体などでつくるネットワーク「気候変動イニシアティブ」など、いろんな団体の人たちが政府にアクションを求め、自分たちで成功の実例を作って、広めていく役割が期待される。でも、周りが止まっていれば、それで間に合うかは分からない。

 もたもたしていると、海外で脱炭素のイノベーション(技術革新)のようなことが起きて、それが日本の産業を破壊するような事態になる可能性もある。気候変動対策の重要性を、ビジネス面からもしっかりと考える時期に来ている。

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 一方、適応に関しては昨年、とても象徴的だと感じたことがあった。

 全国の小中学校の教室に熱中症対策でエアコンを入れることになったという出来事だ。かつては夏は暑くても我慢して勉強して、夏休みに休めばいいじゃないか、という考え方だった。

 気候が変わることで、社会の常識が変わる。そう強く実感した。

 そんなふうに気候の変化をしっかり認識し、対応すること。そして予見し、備えることが、極めて重要である。

 【ズーム】IPCC「1・5度特別報告書」 IPCCが昨年10月に公表した。現状では2040年前後に産業革命以降の世界平均気温の上昇幅が1・5度に達するとし、1・5度に抑えた場合と、2度になった場合との影響の比較も提示した。1・5度なら海面の上昇幅は2度に比べ約10センチ抑えられ、影響を受ける人は1千万人少ないと推定。サンゴ礁は1・5度なら70~90%、2度なら99%以上消失する恐れがあるなどと示した。