連載「気候変貌」では半年間にわたって健康や農業、災害の分野でのさまざまな適応策や、温室効果ガス削減の取り組みなどを報じ、考えてきた。あらためて各分野の専門家に話を聞いた。

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■健康■ 熱中症前段階にもリスク

筑波大 本田靖(ほんだやすし)教授

 

 暑さによる健康へのリスクは、熱中症だけに限らない。むしろ脱水などによって引き起こされる脳梗塞や心筋梗塞といった循環器系などの疾患にも目を向ける必要がある。

 確かに暑い日は熱中症の救急搬送は増える。だが、気温と死亡者数との関係をデータで分析すると、熱中症より循環器系の疾患で亡くなる人の方が、桁が違うほどに多いと考えられる。

 実際は熱中症になる前の段階で、暑熱ストレスが持病に与える影響で亡くなっている。その事実への認識が対策には重要だ。水害や土砂崩れの犠牲者と異なり、直接的には見えていないが、実は多くの人が亡くなっている。その意味で猛暑は災害と捉えた方がいい。

 体育や部活動など学校で暑さ指数の測定や運用が浸透しているのは、とても意味のあることだ。指数の基準を厳密に適用すると、夏場の運動が厳しい状況にもなるが、暑さへの感受性には個人差がある。教員や指導者が熱中症の知識を身に付け、引き起こされる症状への対応や子どもの体調把握を徹底した上でやることが必須になる。

 20、30年後には、夏場は外で体育の授業ができなくなる可能性もある。体育館にエアコンを付けることも必要になってくるだろう。

 暑熱に対する対策は、水分補給とエアコンの使用が大原則。夏場は気温にかかわらず、とにかく水を飲むというぐらいの認識でいい。ただ、持病によっては水分摂取が制限される人もいるので、注意が必要だ。

 エアコンは、少し前までは温暖化を進めるという論調もあったが、ためらう必要はない。必需品として自治体は各戸への設置を促す必要がある。日本のように湿度が高いところでは、扇風機を併用することなどでより効率的な対策になるという研究もある。

 特に高齢者は体内に蓄えている水分量が少ないし、暑さに対する感受性や基礎代謝も落ちる。若者にとって快適なエアコンの温度を寒く感じる人もいる。エアコンを使わず、自宅で亡くなる人が多いのが現状だ。

 危険性を伝える情報を提供してもその情報が届かない、あるいは認知症などで十分に理解できないお年寄りが亡くなっている。民生委員らを中心に、地域で周囲がケアをしていくことが大切だ。

 【略歴】2006年から現職。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次、第5次評価報告書の執筆者の一人。専門は環境保健学。

■農業■ 高温耐性品種うまく活用

農研機構農業環境変動研究センター 宮田明(みやたあきら)気候変動対応研究領域長

 

 将来、平均気温の上昇と同時に、異常な高温や低温など極端な気象現象の頻度が高まることが予測されている。その両方に備える必要がある。下野新聞社の農業関係者へのアンケートでは、年々の気象の経過が従来と違ってきており、対応が難しいという声が目立った。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)では気象庁の予測データを活用した栽培管理支援システムを開発、公開している。こうしたツールを役立ててほしい。

 長期的に見れば、品種や作物の転換は必須になる。

 コメに関しては、穂が出た後の登熟期の高温と、それによる品質低下は深刻な問題だ。コシヒカリ人気は根強いが、栃木県を含め各県が力を入れて開発した高温耐性品種をうまく活用していけたら良いだろう。

 農林水産省による適応に向けた将来展望という調査報告書には、熱帯果樹が紹介されている。温暖化を新しい機会と捉え、国内では栽培できなかった作物を展開していこうという考え方だ。連載「気候変貌」で紹介されたトウモロコシの二期作なども同様で、温暖化を利用した事例をどんどん考えていく必要がある。

 大規模生産者は、比較的積極的に新しい品種導入に取り組んでおり、適応は進むとみている。ただ、多くの農家は温暖化以上に高齢化が進み、新しい技術や品種の導入が進みにくい。深刻で難しいが、避けられない問題だ。一つの方向として、ICT(情報通信技術)やロボットを利用した農業のスマート化があり、農研機構も積極的に、研究に取り組んでいる。

 地方自治体には地域に根差した適応計画を作ってほしい。環境、農業部門のしっかりとした連携が大切だ。現場への情報提供や営農指導の面でJAの役割もより重要になると考える。

 また、気候変動の影響で、特に果樹などでは食べる分に影響がなくても、外観が悪くなるケースがある。

 外観品質の維持は大切なことだし、高温でも着色の良い品種や日焼けを防ぐ栽培技術の開発も進めているが、技術で対応しようとすると、農家の負担になる場合も多く、そのコストは消費者に返ってくる。気候変動の問題に限らないが、できれば消費者には食味に関係のない外観品質には、あまりこだわり過ぎないようになってもらえたらと思う。

 【略歴】国立研究開発法人農業環境技術研究所の大気環境研究領域長を経て、同研究所と農研機構が統合した2016年から現職。専門は農業気象学。