福島県大熊町の新しい役場庁舎は町内の南部にある。木材の質感を生かした壁に大きなガラス窓を配した2階建てが、緑の里山を背景に映えていた▼周辺には真新しい道路、真新しい住宅。町自体が一からつくられている。避難先から帰還した住民の新しい暮らしがここから始まる。東日本大震災に続き、町内にある東京電力福島第1原発で事故が起きて、全町避難を余儀なくされた▼今も、旧庁舎を含む市街地の大半が帰還困難区域だ。車の通行が認められた国道から新庁舎に向かうには、大きく遠回りする必要がある。事故の後、町役場は県内の数カ所に出張所などを置いて、各地にばらばらに避難した町民に対応してきた。遠方から議員が集まって、議会を開くのも容易でなかった▼新庁舎の周りにはまだ商店も乏しく、病院もない。町は地域循環バスを運行して、医療機関や隣町の商店街への住民の足を確保する。復興、再興への道は依然として険しい▼東京五輪・パラリンピックの聖火リレーコースが決まった。初日は福島県楢葉町のサッカー施設「Jヴィレッジ」から浜通り地方を一巡する。大熊町を通過する際は、きっと新庁舎前も通るだろう▼その映像を目にしたとき、すぐ近くに聖火が走れない土地が残っていて、多くの人が帰還の日を待っていることを思い出したい。