「率直に虚心坦懐(たんかい)に話をしたい」という安倍晋三首相の言葉に首をひねってしまった。北朝鮮による拉致被害者の家族と、19日に面会した際の発言だ。金正恩朝鮮労働党委員長との会談実現に改めて意欲を示した上で述べた▼広辞苑によると「虚心坦懐」とは「心に何のわだかまりもなく、さっぱりして平らな心」とある。安倍首相は北朝鮮に対して厳しい姿勢を取り続けてきた。首相が虚心坦懐と言っても、相手側には「わだかまり」があるだろう▼日朝交渉の経緯を振り返ってみよう。2002年9月に当時の小泉純一郎首相が初めて訪朝し、北朝鮮に拉致を認めさせた。その約1カ月後に蓮池薫さんら拉致被害者5人の帰国が実現する▼小泉首相が被害者の子供らの帰国を実現するために再訪朝するのが04年の5月22日。約1年7カ月もかかった。そして、その後15年間、首脳会談は行われていない▼安倍首相は今年5月になって、急に「条件を付けずに金氏と直接向き合う」と表明した。北朝鮮への圧力を前面に打ち出してきた路線からの大きな転換だ。米朝協議が行き詰まる中、北朝鮮が会談に応じる可能性があると踏んだのだろうか▼首相には会談を実現し、拉致問題を解決に向けて少しでも前進させてほしい。その意欲が国内向けのアピールだけではないことを願っている。