関東・東北豪雨で、木々の上部しか見えないほど水をためた渡良瀬遊水地=2015年9月11日、小山市下生井

 堤防の階段に記された当時の水位「20・77メートル」を示す標識に目を向け、広大な湿地が持つ価値を説いた。

 「温暖化が激しくなると、同じような洪水が度々起こるかもしれません。ここは、治水の面でも自然の面でも要なんですよ」

 昨年12月、本県などの4市2町にまたがる渡良瀬遊水地の小山市側の堤防下で行われた外来植物の除去作業。草刈りを終えた約600人を前に、作新学院大女子短期大学部の青木章彦(あおきあきひこ)教授(環境教育)が、2015年9月の関東・東北豪雨を振り返った。

 「あの時も遊水地は利根川の水量を抑え、首都圏を守るという機能をしっかり果たした」

   ◇   ◇

 日本では13年ごろから、自然環境が持つ機能を社会の課題解決に活用する考え方が用いられ始めた。「グリーンインフラ」と呼ばれる概念だ。

 気候変動に対する防災・減災も役割の一つ。コンクリートのハード整備(グレーインフラ)だけでなく、自然の力を利用して補完したり、コミュニティー形成など複合的な価値を持たせたりすることなどが特徴とされる。

 渡良瀬遊水地もグリーンインフラに当てはまると考えられている。総貯水容量2億立方メートルを誇る治水の要所である一方、12年にはラムサール条約湿地に登録された。広大なヨシ原や絶滅危惧種を含む動植物の宝庫に多くの人が集う。

 青木教授は「多様な役割の維持に市民が関わっていることもグリーンインフラの重要な視点」と語る。

   ◇   ◇

 田んぼが持つ貯水機能を利用して洪水や水田被害の軽減を図る「田んぼダム」も、グリーンインフラの一つとされている。

 小山市西部などをエリアとする、思川西部土地改良区は関東・東北豪雨で被災したことを受け、17年度から整備を始めた。農家の協力を得て、田んぼの排水口に、直径4センチほどの穴が開いた木製の板を取り付ける。すると、排水量が抑えられ、下流の浸水が軽減される。5年をかけ約1200ヘクタールを田んぼダムに変える。

 宇都宮大農学部の研究室のシミュレーションでは、2日間で250ミリという50年に1回程度の大雨が降った場合、深さ30センチ以上水がたまってしまう水田の面積を約3、4割減らせるという。

 田んぼダムは、米どころの新潟県内をはじめ、全国各地に広がっている。同大の後藤章(ごとうあきら)名誉教授(水文環境学)は「気候変動が進む中、河川内で閉じ込める氾濫抑止から、流域全体で氾濫を制御する対策が求められており、田んぼダムは大きな意味がある」と話す。

 国土交通省は17日、グリーンインフラの活用を推進する方針を示した。取り組みに詳しい東京農業大の福岡孝則(ふくおかたかのり)准教授は「都市や農村など地域ごとに資源は異なる。地域なりのグリーンインフラを考えることが重要」と指摘。自然の力を見直す動きが注目される。