車の水没死亡事故が起きたアンダーパス。事故の4日後にも雨で冠水した=2008年8月20日午後、鹿沼市茂呂(画像は一部加工しています)
 
 エンジンが止まり、車内に入ってきた水で尻まで浸った。窓からボンネットに出た夫とドアをこじ開ける。車外に脱出すると、首まで水面が迫っていた。
 

 「今でも人に話すと震えちゃうんです。こんな怖いことが雨であるなんて」

 埼玉県朝霞市、豊田圭子(とよだけいこ)さん(64)があの日の記憶をたどる。2008年8月16日夕、豪雨で冠水した鹿沼市茂呂のアンダーパスで車が水没し同市千渡、高橋博子(たかはしひろこ)さん=当時(45)=が亡くなった。豊田さんは高橋さんの直前に同じ場所で水没したが、辛うじて助かった。

 この日、市内の地域気象観測システム(アメダス)で午後4時までの1時間降水量はゼロ。それが同6時10分までの1時間は「滝のように降る」と例えられる60ミリ超まで達していた。

 突発的、局地的に激しく降る「ゲリラ豪雨」は、地球温暖化が進むと増えると見込まれている。原因となる積乱雲の急激な発達を予測する動きが進んでいる。

 気象情報会社「ウェザーニューズ」(千葉市)が頼りにする柱の一つが、市民の力だ。同社は、毎日18万件に及ぶ一般からの天気の現況報告や画像を天気予報に活用している。

 そのネットワークを生かし、08年から夏に「ゲリラ雷雨防衛隊」と名付けた企画を展開し、全国各地から怪しい雲の報告を求める。画像を解析して、最も重要な積乱雲の発生間際や発達の危険性をいち早く捉え、独自の雨雲レーダーなどのデータを加えて先を読む。

 現在、10キロ四方単位のゲリラ豪雨予測の成功確率は90%。平均で59分前に、アプリを通じて携帯電話などへアラーム配信しているという。同社がまとめたゲリラ豪雨の都道府県別発生回数で本県は15年2位(252回)、16年4位(313回)、18年2位(223回)だった。担当者は「ゲリラ豪雨で命を失う人をゼロにするのが目標」と話す。

 防災科学技術研究所(防災科研)と日本気象協会は昨年7~10月、予測情報をメール配信する実証実験を行った。用いたのは、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」の一環として17年に開発された新しい気象レーダーだ。

 ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲は、10分程度で急発達することがある。従来のレーダーでは雨雲の全体像の把握に5分ほどかかっていた。新しいレーダーは約30秒で可能になり、より早く精度の高い予測情報を配信できる。

 実験対象はレーダーが設置されている埼玉大(さいたま市)から本県を含む半径50キロ。約2千人のモニターを募り、最大30分先の予測メールを配信した。予測精度は従来比で約60%向上。アンケートでは「役に立った」「いくらか役に立った」との回答が合わせて9割を超えたという。

 「降り止みもある程度、精度良く予測できると分かった」。防災科研の岩波越(いわなみこゆる)国家レジリエンス研究推進センター長は「東京五輪をはじめ、屋外イベントの運営などにも活用できる」と期待している。

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 近年、豪雨被害が後を絶たない。気候変動の影響で短時間の集中豪雨の増加や強い台風の発生などがさらに懸念される中、私たちの備えを検証する。