忘れられない光景がある。東日本大震災が発生した2011年夏、本社写真映像部の記者として訪れた世界遺産の玄関口・神橋。いつもなら人だかりが絶えない名所なのに、観光客が1人も見当たらなかった。

 「日光のために」。当時の異常事態を打破しようと、地元有志は誘客のためにあらゆる手を打った。宇都宮市で老舗商店が勢ぞろいした異例の物産展を開催。斎藤文夫(さいとうふみお)前市長や福田富一(ふくだとみかず)知事に「観光地の復興」を直訴して回った。

 奮闘の結果が実り、日光宇都宮道路の無料化や日光山輪王寺での震災犠牲者追悼法要が行われた。

 11年の市内への観光客入り込み数は約862万人と前年比約274万人の減となったが、その後は徐々に回復。18年は5市町村合併以降、過去最多の約1231万人に上った。

 大震災を契機に根付いた攻めの姿勢が今も観光振興につながっている証しだと思う。有志の熱意は日光支局での取材の原動力にもなった。彼らの思いがさらに広がることを願う。