正直、演歌はその暗さと湿っぽさもあって、あまり得意なジャンルではない。だが何事にも例外はある。森昌子(もりまさこ)さんが歌った「越冬つばめ」は、卓越した歌唱力も相まって心を揺さぶられた▼♪ヒュルリ ヒュルリララ ついておいでと啼(な)いてます…。女の恋心を切々と歌い上げるサビに差し掛かると、演歌好きでなくても魂に突き刺さる。1983年発売の楽曲だから森さんはまだ20代前半の頃だった▼筆者とは同年代。しかも宇都宮市出身なので、遠巻きにではあるが近しい存在と感じていた。取材経験のある同僚記者によれば、大スターにもかかわらず少しも偉ぶらず飾らない人柄に好感が持てたという▼デビュー当時、愛らしいショートカットから付いたあだ名が「モンチッチ」。人気のフィギュア選手ジャネット・リンさんにあやかってスタッフに指示された髪形は「本当はいやでしようがなかったの」▼天性の歌唱力故に美空(みそら)ひばりさんら大御所にもかわいがられた。馬主で知られる北島三郎(きたじまさぶろう)さんからは、馬をプレゼントすると言われ困り果てたとか▼還暦を機に年内いっぱいでの引退を発表した森さん。「人生の残された時間をもう少し穏やかな時間の中で充実させたい」。歌の世界でやり残したことはないのだろう。寂しい限りだが心底「お疲れさまでした」と言いたい。