「故郷を愛するということは(中略)その風土と歴史をも深く知り、それを松明(たいまつ)として後世に手渡してゆくことなのではあるまいか」。栃木市生まれの直木賞作家、中村彰彦(なかむらあきひこ)さんの「わたしのとちぎ」と題したエッセーの一節である▼中村さんは、福島県会津若松市の史跡整備の充実ぶりを引き合いに出しながら、本県の熱意の薄さを嘆いた。長い歴史を誇る県都も、決して例外ではない▼宇都宮まちづくり推進機構が昨年、宇都宮城下絵図と現在の地図を重ねた「宇都宮『江戸時代』歩き地図」を作製した。戊辰戦争や第2次世界大戦などで多くの歴史的資産が焼失した宇都宮の歴史を再認識する一助に、との狙いを込めた▼先日、地図作製を記念した講演会が市内であった。テーマは「二荒山神社の祭りと氏子町」。県立博物館名誉学芸員の柏村祐司かしわ(むらゆうじ)さんが強調したのも「宇都宮のことを知らない住民が多い」という点だ▼二荒山神社の祭礼や行事は江戸時代初期まで神職らが執り行い、町人の参加は中期以降。伝馬町や石町など39の氏子町が支えてきたが、今はそれも衰退。秋の菊水祭を本格的に復活させることなどでまちづくりの再興を訴えた▼土地の記憶をとどめた町名も多くがなくなった。歴史を生かしたまちづくりは、この地図を片手に町歩きをすることから始めたい。