ハウスの中で真っ赤に熟したイチゴ。本県を代表するブランド農産物にも、気候変動の影響は表れ始めている=11日午後、県農業試験場いちご研究所

 イチゴ作り半世紀の技術をもってしても、昨年は異常に苦労した年だった。

 「11月ごろは品質が上がらず、市場関係者から『今年はどうしちゃったんだ』って心配されてさ」

 2月下旬、とちおとめが色づく足利市鵤木(いかるぎ)町のハウスで、JA足利イチゴ部会長の菊地俊一(きくちしゅんいち)さん(76)からため息が漏れた。12月の冷え込みで救われたが、秋口は気温が下がらず、例年になくイチゴに味がのらない状況に悩まされた。

 夏場の苗作りから異例だった。暑すぎて根が出ず、外部から新たな苗を一部購入せざるを得なかった。遮光率を高くしたネットでも防ぎきれず、細霧で温度を下げる装置を試した。

 「苗半作」と言われるほど、出来を左右する苗作り。約20年前に露地栽培から、高温多湿で出やすい炭疽(たんそ)病をより防げる「空中採苗」に切り替えた。2005年には風水害の増加を見越し、数千万円かけ堅固なハウスを建てるなど、設備投資で積極的にリスクを減らしてきた。

 「コストがかかっても、これからは高温対策をやるしかない。昔じゃ考えられない天候が多すぎるよ」

 研究サイドでも温暖化は懸念材料になりつつある。

 県農業試験場いちご研究所(栃木市)によると、暑さは病害虫や苗作りへの悪影響に加え、秋に花芽がつく時期を遅らせる。実がなるサイクルが不安定になるため、農家の出荷に響く。

 「温帯から亜寒帯の冷涼な気候を好むのが大前提」。稲葉幸雄(いなばゆきお)所長が語るように、イチゴはそもそも暑さに弱い作物だ。「これまで育種の大きな目標は耐病性だったが、高温耐性も可能性は考えられる」と、コメのような品種改良による対策も視野に入れている。

 海外を見れば、イチゴ大国の米国は、季節に関係なく実がつく四季なり品種に力を注いでいるという。本県も含め国内は、とちおとめなど一季なりが主流だ。稲葉所長は指摘する。「暑さに強いイチゴは、暑さに強い遺伝子を探すことから始まるレベルの話」。ハードルは高い。

 本県がイチゴ生産量日本一になる基礎を築いたのは、17年に76歳で亡くなった元県農業試験場栃木分場長の赤木博(あかぎひろし)さんだ。1980年代に横綱級の品種「女峰」を開発した。退職後も個人で高級品種「ロイヤルクイーン」を生み出すなど、情熱は衰えなかった。

 「将来はもっと気温が高くなる。種子島とか沖縄とか南の方で育種、交配して備えないと駄目だ」

 赤木さんが退職後の研究拠点にした商社「エバーウィングス」(壬生町)の大垣恵一(おおがきけいいち)社長(67)は、赤木さんが常々そう口にしていたのを覚えている。

 「農家の苦労も知っていたし、県の研究の今後も気に掛けていた。だから温暖化への対応を案じていたのだろう」と故人をしのぶ。

 イチゴは本県が全国に誇る農のブランド。守り続けられるかどうかは、気候変動への適応と無縁ではない。