旧日光市の市街地から奥日光・中宮祠までは車で30分程度。だが50年ほど前まで路面電車、ケーブルカー、バスをゆっくり乗り継いだ時代があった▼その路面電車「東武鉄道日光軌道線」の車両が、新年度中に同市内の観光施設チロリン村から同市に譲渡され、東武日光駅前に展示する計画が進められることになった▼旧国鉄日光駅前│馬返約10キロの路面電車は1913年に全線開業した。神橋のすぐ下流側には、カーブを緩やかにする専用橋があった。戦後、増え続けた観光客の輸送だけでなく貨物や市民の足として活躍。だが自家用車の普及やいろは坂開通などにより利用者が減り、68年に廃止となった▼スピードスケート元五輪代表監督の石幡忠雄(いしはたただお)さん(77)は日光育ち。中学1年時に通学で利用し「たくさんの人が乗り合わせ、気恥ずかしかった」と振り返る。冬場のスリップや、デッキまで人があふれた満員の光景も「故郷の思い出」だ▼廃止後、車両を譲り受けた岡山電気軌道(岡山市)によると、2両が今も現役で活躍している。1両はファンの要望で日光当時の配色に塗られ、「東武日光軌道復元号」として毎月1回、運行されているという▼日帰りで足早に帰る観光客が目立つ日光。展示車両が醸す昭和の雰囲気が、ゆったりとした旅を呼び戻すきっかけになればいい。