1776年、世界はまだ夜明け前だった。黒船来航の77年前。日本は江戸幕府の第10代将軍徳川家治(とくがわいえはる)が治め、英国、フランス、ドイツ(当時はプロイセン)も王を頂いていた▼アメリカ合衆国はその年、産声を上げた。独立宣言は宗主国・英国の王政を「度重なる不正と権利侵害の歴史」と断じ「全ての人間は生まれながらにして平等」とうたい上げた▼宣言に署名した13州植民地には、領主も、貴族も、特権的な聖職者もいなかった。旧体制と絶縁し、共和制を礎とした「王のいない国」だ▼王や貴族らの圧政を「腐敗」と見なした米建国の父たちは、権力の分散に心を砕いた。政府の権限を中央(連邦)と地方(州)に配分し、立法、行政、司法の権限を振り分けた。三権分立が制度化された理由の一つは、大統領が巨大な権力を手にし、王のように振る舞うことを防ぐことにある▼合衆国憲法の精髄とも言えるそうした規範が揺らいでいる。トランプ大統領はメキシコ国境に壁を造るため、自らの権限で歳出項目を振り替え、建設費を捻出できる「国家非常事態」を宣言した▼16の州が直ちに違憲訴訟を起こした。民主党のペロシ下院議長は「建国の父たちは王を望んでいなかった」と述べた。「人民の、人民による、人民のための政治」は「皇帝大統領」の下で激しくきしんでいる。