政治家にとって言葉ほど大切なものはない。国民に訴え対立する相手を説得するのは、信念に裏打ちされた言葉だ。そんな政治家が見当たらなくなった中、昨年急死した前沖縄県知事の翁長雄志(おながたけし)さんは希有(けう)な存在だった▼「翁長雄志の『言葉』展」(沖縄タイムス社主催)が先日、東京都内で開かれた。展示されたパネルに並ぶ言葉には考えさせられる▼「首相が言う『日本を取り戻す』という中に、沖縄は入っているんですか」。知事として反対を貫いた名護市辺野古への米軍基地移設計画を巡り、安倍晋三(あべしんぞう)首相と会談したときの言葉だ▼辺野古に代わる候補地を示すよう迫る政府に対しては「日本の政治の堕落だ」と切り返した。戦後、経済発展した「本土」から切り離された沖縄県民の心情を「魂の飢餓感」と表現した▼自民党県連の幹部だった翁長さんは革新陣営まで取り込み、知事になる。保守政治家を自任し、「沖縄を守るのが保守だ」と話した。守ろうとしたのは沖縄の「尊厳」ではないか。沖縄タイムスの記者は、数の力で押し切る安倍政治を「稚拙だ」と切り捨てたと紹介した▼辺野古移設の賛否を問う沖縄の県民投票は「反対」が7割超を占めた。その強い民意に翁長さんが残した意志を感じる。「ノー」の言葉をどう受け止めるのか。今度は本土の側が問われる番だ。