歌舞伎や文楽と並び日本の古典芸能を代表するものに能がある。庶民の娯楽から生まれた歌舞伎などとは異なり、権力の庇護(ひご)があって発展してきた能はいささか取っつきにくい▼今でも頻繁に上演される曲目は200を超えるそうだが、広く知られた「遊行柳」と「殺生石」は那須町を舞台にしている。この地が高尚な古典芸能の古里であることは、同じ県民として誇りに思う▼実はこれらのほかにも本県と重要な関わりを持つ能がある。「いざ鎌倉」の語源となったことで名高い「鉢木」は、今の佐野市を舞台とした曲目であるという。そのことを改めて教えてくれる絵本が最近、刊行された▼元小学校教諭で絵本作家の小板橋武(こいたばしたけし)さん(82)=宇都宮市=が出版した「鉢の木ものがたり」(随想舎)は、素朴な味わいの水彩画が魅力的だ。「本県の宝物と言っていい話を一人でも多くの人に知ってもらいたくて」と創作の動機を語る▼鎌倉幕府の執権北条時頼(ほうじょうときより)が身分を隠し、貧しい家に一夜の宿を求める。家主の佐野源左衛門(さのげんざえもん)はいろりのまきが足りずに大切にしていた盆栽を燃やしてもてなしたーというあらすじだ▼美しい民話を育んできた土地柄を小板橋さんはことのほか自慢に思っている。ブランド力不足がいわれる本県だが、こんな思いが広がればおのずと発信力は増すに違いない。