夏目漱石(なつめそうせき)の「吾輩(わがはい)は猫である」に、義援金に関するくだりが出てくる。「(主人は)東北凶作の義捐金(ぎえんきん)を二円とか三円とか出してから、逢(あ)う人毎(ごと)に義捐をとられた、とられたと吹聴しているくらいである」▼猫はこう言って笑い飛ばす。「義捐とある以上は差し出すもので、とられるものでないには極きま)っている。泥棒にあったのではあるまいし、とられたとは不穏当である」。けだし名言である▼今の世に、寄付文化がしっかり根付いているかといえば心もとない現状があるのではないか。その証左が「ふるさと納税」の隆盛である。返礼品を目的に納税者が自治体を選んで寄付すると、住民税や所得税から控除される▼本来、寄付は具体的な見返りを求めない無償の金銭や財産の供与である。テレビではふるさと納税サイトのCMが盛んに放映され、寄付金をだまし取る偽サイトまで出現する始末。県は年末に公式ホームページで注意喚起を始めた▼国も高額な返礼品には問題があると6月から、返礼品の価格を寄付額の3割以下に抑えることなどを柱とした仕組みに改める▼昨年末、宇都宮市社会福祉基金宛てに、ある市民から遺産2億600万円の寄付があったと小紙が報じた。「公表は差し控えてほしい」と感謝状などの辞退も申し出たという。寄付の原点をそこに見た気がした。