昨年末に経済産業省と対立し、民間出身の取締役全員が辞任した官民ファンド「産業革新投資機構」。経産省の説明は極めて不自然で納得できなかったが、報酬水準に菅義偉(すがよしひで)官房長官が難色を示したことが騒ぎの発端となったと伝えられた。それなら得心がいく▼世耕弘成(せこうひろしげ)経産相は「確定前の案を示した」と強調していたが、そうではなく、経産省内では決定していた案を菅氏が拒んだため、契約を覆すちゃぶ台返しになったのだ。それを「国民が納得する相場観」といった曖昧な理屈を持ち出して取り繕ったために疑念が深まった▼事前に相談していれば、ここまでの混乱は避けられたのではないか。優秀な官僚の資質の一つとして、落としどころを想定した「根回し」の巧みさが挙げられよう▼首相官邸の覚えがめでたい経産省の幹部がなぜ、政権の要である菅氏に了解を取っていなかったのか。そこまでの案件とは考えなかったのだろうか▼上層部からの突然の指示で、現場の決定が変更されることは珍しいことではない。上司と幾度も協議し準備万端で臨んでいた仕事に突然、中止命令が出たという経験をされた方も少なくないのではないか▼それぞれの立場によって見えているものが違うことがある。組織で仕事をしていくということはその差を埋めていくことなのかもしれない。