子どもの貧困対策を進めるには、貧困の実態、今ある制度をどう評価すべきなのか。政治や自治体の役割とは。社会には、どのような姿勢や発想が求められるのか。子どもの貧困対策推進法の政府大綱の策定作業が進み、生活困窮者自立支援法の施行が2015年度に迫る中、中央大の宮本太郎みやもとたろう教授、国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩あべあや社会保障応用分析研究部長に語ってもらった。

(子どもの希望取材班)

■政治・自治体の役割/福祉と雇用一体で

宮本 太郎さん
中央大大学院法学研究科博士後期課程政治学専攻(所定単位取得)、ストックホルム大学客員研究員、立命館大教授、北海道大大学院法学研究科教授などを経て中央大法学部教授。専攻は比較政治、福祉政策論。

 支えられる側が自立できて就労し、支える側に回ることも可能にするような手だてが打てるかどうかが、政治に問われている。

 生活保護費切り下げを政策に掲げた自民党が政権与党に復帰し、2013年からの3年間で基準を引き下げ総額670億円を削減することになった。「デフレが進んでいる」ということが表向きの理由だが、実際はもっと政治的な理由だろう。

 納税者の生活不安の増大を背景として、社会に生活保護をたたくムードが強まっている。

 こうした場合の生活保護への反応は二つに分かれる。一つは「あすはわが身」と制度がよい方向で発展する道を考える、もう一つは「自分はここまで頑張っているのに、生活保護でのうのうと暮らしている人がいる」と感情的に反発するものだ。

 どちらに行くかを決めるのは、政治が示す指針に大きく左右される。

 人間の不信や拒絶感を引き出した方が大きなエネルギーになりやすいが、それで本当に持続可能な社会になるのか。政治のイニシアチブの発揮の方法について、私たちが評価していく。そういうまなざしが必要ではないか。

 雇用や生活困窮者の支援は自治体の役割だが、得意な分野ではない。

 「福祉は働けない人のもの」「雇用は福祉を必要としない人の世界」という二分法ができ上がっている。それが災いして、雇用と福祉の部局でコミュニケーションがうまくいかない。

 「何らかのサポートがあれば働けるが、それが得られない」「子どもを夜、見てくれる場所があれば所得が上がるのに、そんな場所が見当たらない」というような人は、先の二分法に当てはまらない。支援があれば働ける人たちを支援する部局はない。

 自治体は緊急雇用創出事業や障害者支援といった制度や補助金を実は持っている。ばらばらに行政が所管している仕組みを、まとめ上げていく力が求められている。

■厳格な二分法/社会激変、境目あいまい

 日本の社会保障、福祉の仕組みでは、「支える側」と「支えられる側」がはっきりと二分化されてきた。今は社会が急速に変わり、二分法の境目もあいまいになっている。

 支える側とは、若く健常で健康な働ける人たちを意味し、支えられる側は、年を取ったり、障害や病気などがあって、福祉のお世話になっている人たちを指し示してきた。それが、社会の流れに沿った「正しい」見方だった。

 しかし現在の母子家庭の母親の多くは正規雇用でもなければ、正規の稼ぎ手の世帯にいるわけでもない。支援策は乏しい。

 社会保障制度は、税金、社会保険料を集め年金、子ども関連手当などを支給する「所得の再分配」の機能を担っている。

 日本では年金を除くと、再分配後に貧困率が悪化してしまう逆転現象が起きているが、ひとり親家庭に対する支援策が数少ない現状は、こうした逆転現象の最大の象徴となっている。

 かつては、二分法をはっきりさせた上で支えられる側の数を抑制し、支えられる側になったら何らかの給付を受けて休んでもらうといった対処法でよかった。

 だが、がんやうつを抱えながら働く人の増加なども含めて厳格な二分法はもう成り立たない。多くの人が「生きがたさ」を抱えるようになってきている。支える側を支えることが大切だ。

 そのことで、支えられる側の人が、支える側にも回ることも可能になる。

■給付付き税額控除/就労の意欲促す発想を

 働いて所得が増えると、その分給付額が減る生活保護で、働く意欲を保つことはたやすくない。ワーキングプア層や生活保護受給者の働く意欲を後押しする重要な考え方が、所得税額の控除と手当給付を組み合わせた「給付付き税額控除」だ。

 例えば、10万円の給付付き税額控除の場合、税額が15万円の人は10万円を控除され、5万円を納める。一方、税額が5万円の人には、5万円の手当が給付される。課税所得がない低所得者もメリットを得られる。

 この方法だと、働けば働くほど、一定の所得までは給付が増えていく。働く人の賃金、働けない人の福祉というこれまでの二分法を超えて、中間ゾーンを作る仕組みだ。

 現状では、所得が限られていれば、「これでは生活できないから、生活保護を受ける」と思ってしまってもおかしくない。給付付き税額控除なら、働く意欲を持ちやすい。

 米国では1970年代から、先取りし導入している。一定の所得になるまで4割程度の給付を積み上げる形で、10万円の所得があれば給付される手当と合わせ、14万円になる。導入された時は、「労働ボーナス」とも言われた。

 ここ十数年の間に英国、韓国に広がっている。

 一方で、共通番号制などで所得を確実に把握する必要があり、日本に導入するには技術的な問題が残されている。

県内ひとり親就労状況
 県が2008年度に実施した「次世代育成支援に関する実態調査」によると、県内のひとり親家庭の就労状況は母子家庭が83.1%で、うち「フルタイム」が最多の48.0%、「パート・アルバイト」が34.7%。月収は「20万円未満」が90.0%に上り、半数以上が「収入の不安」「雇用の不安」を抱えていた。一方、父子家庭は90.5%が就労。「フルタイム」が87.7%と母子家庭より高く、「パート・アルバイト」は1.8%だった。

■支援給付の在り方/「現金」「現物」特徴生かせ

阿部 彩さん
マサチューセッツ工科大卒業、国際連合、海外経済協力基金を経て国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部長。研究テーマは貧困、社会的排除、社会保障、公的扶助。

 政府は、国民から税金などを集め、年金や子ども関連の手当などを支給する。これを「所得の再分配」という。日本では、年金を除くと、再分配によって、子どもの貧困率が悪化するという逆転現象が起きている。最優先で解消しなければならない。

 政策は大きく分けて二つ。「現金給付」と、物やサービスを直接給付する「現物給付」だ。

 「ばらまき」と批判されがちな現金給付だが、安定した生活基盤を築くためには欠かせない。

 家賃が払えないといった家計の苦しさ、ストレスは、子ども向けの現物給付では緩和できない。多様なニーズをすべて現物給付で賄うことは不可能。ひとり親が仕事を掛け持ちし、夜子どもと過ごせない家庭には24時間の保育体制を整えるのではなく、一緒の時間を持てるよう現金給付することも選択肢になる。

 先進諸国の大半は、貧困率削減の数値目標を定めており、現金給付の種類も多い。例えば、住宅扶助は大多数の先進諸国である。日本は、貧困者向けの現金給付が少ない。家賃を補助するだけで、状況が改善される世帯はかなりあるはずだ。

 特に貧困率が50%に近いひとり親家庭向けの児童扶養手当と、貧困の影響が大きい乳幼児期の児童手当の拡充を考えるべきだ。

 「現金では親がパチンコに使ってしまう」といった批判も強いが、そういう親には行動改善の積極的な支援が必要になる。

 一方、教育や保育など、市場原理に任せると、サービスが確保できないものには、現物給付で対応すべきだ。

 最初に手を付ける必要があるのは、義務教育改革。給食や生活支援も含め、学校生活全体の支援を充実しなければならない。

 広範囲の投資が難しいのなら、定時制高校などへの教員の加配やスクールソーシャルワーカーの拡充を検討してほしい。児童養護施設への予算の重点的配分、医療サービスの窓口負担ゼロも求められる。

■所得保障/児童扶養手当の拡充有効

 現金給付策として、児童扶養手当の拡充を求めるのは、ひとり親家庭にいる子どもの貧困率が突出して高いから。手当を受給する保護者数は約101万人(2012年)。既に支給対象層は決まっており、仕組みもできている。財源さえ確保すれば拡充できる。

 「児童扶養手当の所得制限を意識して、就労を控える人がいる」という指摘もあるが、そもそも手当の額が少ない。働かないと生活できず、働く意欲への影響はないと思われる。

 拡充の目安としては、経済協力開発機構(OECD)加盟国の母子家庭貧困率の平均値である30%程度に下げるぐらいの支給額があってもいいのでは。50%近い日本の貧困率は高すぎる。

 運用上の問題もある。

 例えば、ひとり親の親(祖父母)が同居していると受給できないことがある。祖父母の年金まで当てにしなくてはいけない現実があり、さらに介護負担まであるかもしれない。

 児童扶養手当は、対象を絞り込む「選別的制度」。その分、「一生懸命働きもせずにお金をもらっている」といったレッテル張り(スティグマ)にさらされ、それゆえに受給に慎重になることもある。支援から漏れてしまう子どもが出てくる。

 そうした中、現金給付の最もいい方法は支援に漏れがない「普遍的制度」。

 民主党政権の「子ども手当」は所得制限を設けない普遍的制度だった。「高所得者層にも支給するばらまき」との批判が強かったが、財源となる税金や社会保険料を累進的に取れば、そのような批判は当てはまらない。

 子ども手当は、義務教育と同じように、子どもが健やかに育つための「権利」として受け取るものだった。政治家がそれを説明しきれなかったと言える。

 一方、現政権の児童手当は、所得制限が年収1千万円前後と緩やかで普遍的制度に近い。これを拡充し、低所得世帯の方をより手厚くする、あるいは貧困の影響が大きい6歳未満の子どものいる世帯を手厚くする、といった方策が考えられる。

 ◇ズーム◇ 児童扶養手当

 ひとり親家庭が対象。額は受給者の所得と扶養する親族数に応じて決まる。物価に合わせ改定され、本年度の月額は「全部支給」が4万1020円、「一部支給」は4万1010円~9680円までの10円刻み。子ども2人目は月額5千円、3人目からは3千円ずつ加算される。扶養親族が1人の場合、所得額が230万円未満で手当を受給できる。ただし同居する親の両親らがいると、家計が別でも同一生計とみなされる。

■厳しい財源/「痛み」覚悟し対策へ

 国の歳入の半分に近い40兆円あまりを借金で調達し、その残高は1千兆円を超えている。

 少子・高齢化に伴い、年金、医療など社会保障からの給付費は増え続け、社会保険料収入との差は年に1兆円規模で開いていく。

 日本の財政はカチカチに硬直している。子どもの貧困対策に必要な施策であっても、すべて実施することはできない。社会保障制度に占める子ども関連の経費は限られているが、増額するために借金したら、後の世代につけが回るだけ。子どものためにならない。

 子ども関連の支出の優先度が高いと認識され、今ある年金や医療、介護の費用をカットするという思い切ったことをしない限り賄えない。勇気ある政治が求められている。

 国民も「痛み」を覚悟しなければならない。

 「どこかに無駄なお金があるはず」などと言っていられる状況ではない。「自分が負担をしてでも子どもへの対策をやらなければならない」というところまで意識が高揚しないと、実現はしないだろう。

 日本人の多くが「生活が厳しい」と感じ、社会全体に閉塞(へいそく)感がある。ねたみや誰かを蹴落とすような空気がまん延しつつあり、懸念している。

 「子どもの貧困対策推進法」の施行は前進と言えるが、施策の土台となる大綱を決めるのは政治。今後、だれがどのような負担を請け負い、どんな予算をつけるかの政治決定によって法の有効性が決まる。法が大きな前進になるかどうかは、国民の「子どもの貧困を解消しよう」という意気込みによる。