「希望って何ですか 貧困の中の子ども」。1月1日から始まった長期連載を始めるきっかけ、報道スタンス、現代の「見えない貧困」とは、奨学金問題などについて、担当デスクに聞きます。

Q. 1月1日からスタートした長期連載も第1章が終わりましたね。どうしてこのテーマを選んだんですか?

A. 現場の記者が、里親、児童養護施設(※)という「社会的養護」で育って高校に進学することが難しい子どもを取材していたんです。そういう取材を続けるうち、社会的養護にとどまらず、貧困状態に置かれた子どもの厳しさを感じ取ってきたというのが、そもそもの始まりでした。

 最近は、表現方法をめぐって物議を醸しているテレビドラマ「明日、ママがいない」を含めて子どもの貧困問題があらためて注目されていますね。

 2013年6月に「子どもの貧困対策推進法」(2014年1月17日施行)が成立したことにも後押しされ、長期連載によるキャンペーン報道のテーマに据えることになりました。

 ※児童養護施設 保護者のない児童、虐待されている児童などを入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設

Q. 取材をスタートして感じていることは?

A. 子どもの希望取材班の記者3人は、想像していた以上に身近に子どもの貧困問題が存在し、その状況の厳しさを痛感しています。

 例えば、ひとり親家庭の子どもの状況を想像しても、親は収入を確保するために仕事を掛け持ちせざるを得ず、とても忙しい、子どもは親がいない時間が多くて寂しいだろうな、くらいのことは考える。

 でも、実際にその子たちの胸の内、子どもを残して働きに出る親の気持ち、にまではなかなか想像できない。ユニセフ(国連児童基金)が2013年末に公表した日本の子どもの貧困率は14・9%。18歳未満の子どもの6~7人に1人は貧困状態にあると言われます。取材記者は、そうした現実の一端を垣間見ています。

Q. 子どもの貧困は、見えにくいですか?

A. 見えにくいと思います。

 いま、問題視されている貧困は、「相対的貧困」と呼ばれています。それは、食べ物が底をついて、すぐに餓死につながるような貧困ではありません。お金がないために、一般的に得られるはずの人とのつながりや、成長の機会、進学・就職の選択が損なわれる状態を指すものです。みんなが持っているゲーム機を持っていないために友だちの輪から阻害される、塾に通えない、部活動をできない。ケースバイケースではありますが、そういうことも、相対的貧困に含まれる可能性があるでしょう。

 第1章で6回にわたって紹介した児童養護施設で育った塩尻真由美さんのケースでは、お金がないために、高額な楽器を買う必要のある高校では吹奏楽を続けられませんでした。成績は優秀でしたが、就職せざるを得ず、高校卒業後は施設を出なければならないため、就職先は「住み込み」が条件で選択肢は極端に狭められました。まさに相対的貧困の状態です。

 時折、年配の方から「昔は、国そのものが貧しくて、みんなひもじい思いをしていた。いまは食べ物に事欠かないのだから幸せだ」という話を聞くことがあります。現代の相対的貧困とは異質のものだと感じます。

 相対的貧困は、かなり身近に存在しながらも、表面的には「普通」に暮らしているように見えるので、深刻さに気付きにくいのだと思っています。

Q. キャンペーン報道は、どういうスタンスですか?どう取材してどう伝えたいですか?

A. ひとり親家庭の子どもが1人ぼっちでいる。なぜその境遇に置かれ、何を感じているのか、その環境が子どもにどんな影響を及ぼしているのか。そうしたことを取材で感じ取ろうと努力しています。子どもの心情を感じ取れなければ、問題の本質に近づけないと考え始めています。本当の子どもの姿を伝えたいですね。

Q. 第1章に登場した塩尻さんは大人でした。「子どもの貧困」なのに、なぜ大人なのですか?何を狙ったんですか?

A. 確かに連載のスタートと考えれば、現在、貧困状態の中で生きている子どもから入る方が一般的な形かもしれません。しかし、子どもの姿だけでは、将来にわたる影響までは見通せないのだと思います。

 児童養護施設で、子どもらしい多くの欲求を抑え育った塩尻さんの姿を、32歳の現在まで通して目を向けることで、貧困の影響、深刻さを伝えることができる、と考えたわけです。

Q. 奨学金の問題にふれていましたね?

A. 取材したある会合で「奨学金というと聞こえはいいが、ただの借金」という指摘がありました。かつては「奨学金を借りても卒業後に安定した職に就ける」ということを、大前提にできる時代でした。ですから、奨学金が借金だとしても、それほど大きな問題にはならなかったのでしょう。でも、現在、非正規の雇用形態が非常に多く、ワーキングプアも社会問題化しています。つまり、奨学金を返し続けること自体が難しい状況も生まれているということです。

 奨学金の果たしている役割は極めて大きく、どうしても必要なものですが、若者が高校や大学を卒業して、社会に出るスタート時に、既に借金を背負っているという状況をどう考えればいいのか、問題提起したいとの考えがありました。

Q. 第2章に向けて、何をしているんですか?

A. 生の子どもの姿を掘り下げようと、取材しています。中身は、まだ内緒です。