小学校に併設された保育園で遊ぶ子ども。国会議員のフランク・フィールド氏は、貧困の連鎖を断ち切るためには就学前からの支援が重要だと指摘する=5月13日、イングランド北東部ノースタインサイド

 ロンドンから鉄道で北へ2時間半の場所にダーリントン駅はある。

 イングランド地方でも、貧困率の高いといわれる北東部の地方都市だ。

 駅から歩いて数分、ダーリントン市役所に市民サービス部長のマリー・ローズさん(57)を訪ねた。周辺の自治体や民間団体、大学が情報交換する「北東部子どもの貧困委員会」の委員長も務める。

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 「子どもの貧困法の成立が、不況と重なってしまったからね…」

 08年のリーマンショックから続く景気低迷。10年に成立した貧困法の効果を感じられずにいる。

 市財政を支える国からの補助金は今、4割カットされている。「福祉手当やサービスが削られているのに、働き口は増えない。苦しむ人を助ける手段がないんです」

 現政権の緊縮財政が影を落とし、子どもの貧困対策は「揺り戻し」の時期を迎えている。

 子どもの貧困法成立の2カ月後、労働党に代わってデビッド・キャメロン首相が率いる保守党と自由民主党の連立政権が誕生した。

 子どもの貧困対策を強化し始めたトニー・ブレア首相らの労働党政権までに積み上がった財政赤字は1490億ポンド(26兆円)にも上る。

 キャメロン政権は、5年間で9割を減らす方針を打ち出した。

 労働党政権が拡充した児童手当や低所得者向けの「就労タックスクレジット」の現金給付にも制限を設けた。14年までで計180億ポンド(3兆円)削減する。

 「このままでは子どもの貧困が増えてしまう」

 貧困法に基づく「子どもの貧困委員会」は13年、政府に警告、解決策を示して対応を促した。

 委員会事務局は「政府は問題点は認めたが、私たちの案には費用がかかることもあって、同意しなかった」と説明する。

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 労働党にも現金給付の拡充に慎重論がある。

 「お金が不必要なのではない。でも、それだけが問題ではない」。第1次ブレア内閣で福祉改革担当閣外相を務めたフランク・フィールドさん(72)が言う。

 07年までの8年間で、貧困状態の子どもは340万人から60万人減少したが、この間に給付したタックスクレジットは1340億ポンド(23兆円)に上る。それでもなお貧困の中にいる子は多い。

 「一時的な貧困率よりも、子どもの人生が改善するのかどうか、その成果を測るべきだ」とフィールドさん。

 10年、「人生の可能性を広げるには幼少期の支援が重要」とする報告書をキャメロン首相に提出した。

 子どもの貧困対策が揺れ動く英国。厳しい財政事情をにらむ環境は、日本にも共通している。

 ◇ズーム◇ 子どもの貧困委員会

 正式名称は「社会的流動性と子どもの貧困に関する委員会」。子どもの貧困法に基づき設置された諮問機関。法律の目標達成に向けて政府の進行状況を監視し、助言する。委員は民間支援団体や企業部門、研究機関などの代表者ら計10人。委員長は首相が指名する。