子どもの貧困対策を進めるよう、政府にアピールした集会には、親子や支援者ら約1万人が参加した=2008年10月、ロンドン市内(CPAG提供)

 「2020年までに子どもの貧困をなくす」と誓った1999年のブレア宣言。首相の突然の発表に誰もが驚いた。

 「あの約束が作られた経緯は、今も明らかにされていないんです」

 子どもの貧困の調査研究などを行う民間団体チャイルド・ポバティ・アクション・グループ(CPAG)のティム・ニコラスさん(40)は言う。

 1980年代以降、マーガレット・サッチャー首相が率いた保守党政権は大規模な規制緩和を進め、市場原理主義を重視。国有企業の民営化にも踏み切った。

 徐々に失業率が上昇。ひとり親が増え、いつの間にか、子どもの貧困率は27%に達して欧州で最悪になっていた。

 保守党政権への国民の不満を追い風に97年、労働党が総選挙に圧勝、ブレア氏が首相に就いた。

 「政権交代から2年。国民受けする政策を打ち出したかったのでしょう」

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 英国の子どもの貧困をめぐる研究、運動には蓄積がある。

 65年、CPAGが結成され、研究成果を基に研修会や政治家へのロビー活動を続ける。70年代、「児童手当」の導入も強く後押しした。

 教会の活動から発展した慈善団体も多い。

 国民の不満を吸収したブレア宣言は、民間組織の運動に火を付けた。

 CPAGをはじめ150を超える団体が運動体「なくそう 子どもの貧困」を結成。全国でキャンペーンを展開した。

 「2010年までに子どもの貧困を半減させる」が政府の中間目標。

 達成が危ぶまれた08年には、「約束を守れ」をスローガンに掲げて、1万人もの人々が、ビッグベンが立つ国会議事堂前をデモ行進した。

 「運動の中で『子どもの貧困法』を作るというアイデアが生まれたんです」とニコラスさん。

 英国では伝統的に政権交代が行われている。徹底した対策の継続には、幅広い支持を取り付ける必要がある。ニコラスさんは、野党だった保守党議員らを昼食に招き、頻繁に議論した。

 「国民の関心の高さの背景には政府方針だけでなく、民間の活動やそれを伝えるメディアの存在がある」。英国の家族政策に詳しい所道彦ところみちひこ大阪市立大大学院教授は指摘する。

 10年の「子どもの貧困法」の成立は民間の運動の成果だった。

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 日本でも1月、「子どもの貧困対策推進法」が施行された。

 子どもの貧困に関する調査研究や取り組みは緒に就いたばかりだ。

 今、推進法の具体的政策を盛り込む政府大綱の策定作業が進んでいる。

 ◇ズーム◇ 英国の子どもの貧困法

 2020年までに子どもの貧困を撲滅するための目標の達成を政府に義務付ける。(1)相対的貧困率(2)低所得かつ物質的剥奪状態(物質的豊かさに欠けた状態)の割合(3)絶対的貧困率(4)継続的(3年以上)貧困率-の4種の数値目標を定めた。政府は3年ごとに目標達成に向けた戦略を見直す。