楽ではなくても、おびえなくていい生活。

 夫の暴力、ドメスティックバイオレンス(DV)に苦しめられた県央の山下祥子やましたしょうこさん(45)=仮名。離婚した約10年前から、中1だった長男、小4の長女と生活保護を受けながら、アパートで暮らし始めた。

 児童扶養手当なども合わせ月収は約20万円になる。

 3年がたったころ。DVの影響とみられる長男の問題行動は落ち着いてきた。

 「やっと働ける」。祥子さんは、福祉施設で正職員を目指し働きだした。

 しかし数カ月後。

 こんどは長女に異変が。ストレスをためた長男に当たられ続けた。中学校に入って、どうしても家から出たがらず不登校になった。

 祥子さんが朝、職場へ向かおうとすると、「行かないで」と泣いてすがられた。部屋に残しておけない。

 また働けなくなった。

 「働きたい」という思いはある。でも「子どもが育つまでは生活保護を外れられない」とも感じていた。

生活保護の相談窓口。県内の各福祉事務所にある=5月下旬

 非正規の求人があふれ、自分の年齢も不安材料。フルタイムで働いても、生活保護費と同じ収入を得る自信は持てない。

 現金支給の保護費だけでなく、病気になっても医療費を支払わなくて済む。後ろめたさがあっても、生活は「安定」していた。

◇ ◇ ◇

 「日本の生活保護は、十分とは言えないが、一定の水準を給付している」と貧困問題に詳しい中央大の宮本太郎みやもとたろう教授。

 一方、生活保護という安全網の「外」で暮らす低収入者の状況は厳しい。最低賃金は低いまま。働いているのに困窮するワーキングプア向けの支援は手薄だ。

 「収入が限られるとなると、『生活保護を受けた方がいい』と思ってしまうのも無理はない」

◇ ◇ ◇

 子どもたちが少し落ち着き、週1回、福祉施設のパートで働いた祥子さん。

 月給は1、2万円。

 親子3人が生活できる額ではないのに、金額はまったく気にならなかった。

 週2、週3…。やりがいも出てきて、週5日働くまでに勤務日は増えていった。でも、「ボランティアでやります」と月給は据え置いてもらった。

 働く目的が変わっていた。保護費で生活費はまかなえる。「たくさん稼いでも、保護費が減額されるだけだから…」

 生保の枠を超える収入でなければ、働いても働かなくても同じ。

 生保の「外」へと促す仕組みは不十分だ。

 長女が高校を卒業したこの春。正職員を目指して、別の福祉施設で仕事を始めた。収入の不安から生保を受けて子育てしてきた祥子さん。一段落し、これから「外」に出ようと考えている。